遠い吸血の衝動

何時からだろうか。自分に他人とは違う力があると言うことに気づいたのは。
物心付いた時には同年代の奴等には負けなかった。ある時名前も忘れてしまった近所の悪餓鬼が俺を悪魔と呼ぶのでお灸を据えてやろうと思って、思いっきり殴り飛ばした。
悪餓鬼は1ヶ月以上入院した。子供がやったとは思えない程の傷で、加えて周りに誰も居なかったのが幸いして不審者が子供を狙った犯行という事で片付いた。
悪餓鬼は俺の事をずっと「悪魔じゃなかった。もっと上だった」と言っていたらしいが。
それから、周りの大人は俺の事を避けるようになった。
別に、大した問題じゃ無かった。家族がいたから、親がいたから、兄弟がいたから、
それから十年程経っただろうか、世界中を巻き込む戦争が起こった。
俺達の国も例に漏れず戦争に巻き込まれて、父は戦場に駆り出された。

――父は死んだ。

当たり前だ。いつも、優しいあの父が人を殺せるはずが無い。
悲しかったかって?悲しいに決まっている。父はいつも、優しかったんだから。俺達子供の事をいつもいつも大事に思ってくれていたんだから。

しばらくした時、家がある街にまで敵が迫ってきた。奇襲だったそうだ。こちらの警戒網をいとも容易く突破し、目にも止まらぬ早業で味方を殲滅し尽くしたらしい。
俺達は避難するために街を抜けようとした。でも、駄目だったんだ。間に合わなかった。敵がいたんだよ。
その時直感的に理解した。あいつらは俺と同じだって、俺は化物なんだって、奴等は化物を戦争に使ってるんだって。
そう、感じた時には母は殺されていた。俺達子供を庇って敵に引き裂かれた。
その時の敵の顔は今でも覚えている。

父だった。

生気のまるで無い顔、少し腐り始めた色の肌。道理で戦争が長引くにつれ此方の兵は削られていくのに、敵の兵は一向に減らないわけだ。
生きているか、死んでいるかなんて関係無かったんだから。
兄が殺られた。次いで下の兄が。俺はそれを眺めているしか出来なかった。
妹達に父の手が迫ろうとした時、    声が聞こえた。
何を言っていたのかはわからない。だが、確実に身体の奥底から力が湧いてくる声だった。
いつの間にか俺の手には刀が握られていた。長身で黒い奇妙な刀が。
どう使えば良いかはすぐにわかった。

気が付いた時には父の身体は灰となっていた。俺が殺ったんだ。
妹達は、無駄だった。敵が多すぎたんだ。父だけに構っている暇じゃ無かった。
俺は化物のはずだ。其なのに俺は、家族すら守れなかった。
結局物語と同じだ。化物は何も出来ないって、化物は不幸な存在だって。
そう、思った時に父が何故死んだかを考えた。父は優しすぎたから、父は強くなかったから死んだ。
なら、俺は父より強くなる。いや、俺は今父を越えた。父を倒した。
次はもっと強い者を越えよう。その次は更に上を、その次も、その次も、越え続けよう。強くなり続けよう。
何だって出来る化物になるために、もう涙を流さないために、家族を守れなかった俺が出来る事は強くなり続ける事だ。
強くなり続けて、何時かは守れる程強い者になれるだろう。俺より強い者がいなければきっと何だって守れるだろう。
俺は、化物だ。
――――
        • 昔の事を思い出しすぎたな。

【彼は夜の暗闇の中、とあるビルの屋上で星を眺めていた。】

化物になった理由か・・・
変な事を思い出すものだ・・

【何故、化物になったのか、人の人生を捨てたのか。】

そんなもの決まっている。

―――泣きたくないから、化物になったんだ―――

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最終更新:2015年04月18日 14:07