番長グループSS2



影平くんの口車に峰内おばあちゃんが乗ってくれる理由



「おばあちゃーん、カレーパン一個ちょうだい」
「はいはい」
「おばあちゃん俺たらこおにぎりー」
「自分で取りな」
「ひでえ!」
「儂がやさしくするのは女の子だけだよ」

希望崎では立地の関係上、昼休みに学校を抜け出して買い物に行くとか、朝ぎりぎりの時にちょっとコンビニによってパンを買ってくるとか言うことが困難だ。
そのため、必然的に昼は食堂と購買部が盛況になる。

「おばあちゃんこれお会計お願い」
「はいはい。海苔弁当一個とお茶で400円だね」
「おばあちゃん焼きそばパンあるだけ」
「よしな。若いうちからそんなもんに手を出すんじゃないよ」
「……購買で売ってる商品をそんなもの呼ばわりしないでいただけますか峰内さん」

そんな混雑の中、峰内の背後からレジに向けて小さなものが飛んでくる。
五百円玉だ。
峰内の死角から、ちょうどレジが開いたタイミングを狙ったかのように飛んできたそれは500円玉を入れるところめがけ放物線を描き落ちていく。
が、それがレジの中に入ることはない。
見計らったかのように出された峰内の左手が500円玉を掴む。
峰内の視線が手のひらの500円玉に集中する。
その時、さらに逆側、現在峰内の死角になっている場所から今度は直線を描いて3個のより小さな物体が飛んでくる。
速度は先ほどの500円玉と比べ物にならないし、何より今峰内の意識は手のひらの500円玉に集中していると思われる。
今度こそ、レジに入る。
そう思われたそれらは、しかし何者かに阻まれてちゃりん、という音を残して垂直にはじかれる。
見れば、峰内がぼろぼろの布切れをまかれた錆びた棒のようなもので飛来する物体をはじいていた。
はじかれた3つの物体はまた放物線を描き峰内の左手に吸い込まれるように落ちていく。
飛んできたのは、10円玉が二枚と5円玉が一枚。
手におさめられた525円をみると、峰内はため息をつき声を出す。

「影平、買い物はきちんとレジを通しな」

出口に向かってかけられた声に振りむく者はいない。
ただ、一瞬後。
壁から布が一枚はらり、とはがれ、その裏から忍者装束の少年が現れた。

「はい、了解しました」

影平は抱えていた弁当とパックの麦茶をレジに置く。
値段は合計してちょうど525円。

「まったく、どうせ金を払うなら普通に買いな」
「いえ、これも訓練ですので」
「訓練、ねぇ」
「はい。出来る事なら卒業までには一度くらい、峰内さんに気づかれず買い物を済ましてみたいものです」

レジを打ちながら、峰内はふん、と鼻を鳴らす。

「馬鹿を言うでない。お前と儂じゃあ年季が違う。そうそう簡単に抜けると思うてか」
「簡単でないからこそ、挑む価値があるというものでしょう?」

爛漫と笑い答える影平に、峰内は軽くため息をつきひとりごちる。

「あんたが女の子だったら養子に誘ってもよかったんだがねえ……」
「何か言いましたか?」

影平が首をかしげると、峰内は再びため息をつく。
そして、左手でもっていた何かをピン、と弾いて飛ばした。
弾かれたそれは老人がやったものとは思えぬ速度で飛び。

「あいて」

影平の額にぺし、と当たった。

「それをかわせないようじゃ十年早いって言ったんだよ、虚け。ほら、とっとと帰りな」

しっし、と峰内は影平に手を振る。
見れば、影平の後ろにはレジ待ち列が出来ていた。
影平は残念そうに後ろの人間へと場所を譲る。
額に当たったものを手にとってみると、それは5円玉だった。

「あの、これ」
「今日は工夫してたからね、儂からの努力賞だ」

五円分の賞ですか、と不満そうに言いながら、しかし嬉しそうな表情で影平は去って行った。

「車いすおばあちゃーん」
「おや、なんだい?」

女子生徒に声をかけられ、峰内はレジを打ちながら応える。

「今日はやけにうれしそうだね?何かあったの?」

んー、と峰内は少し間を置き

「出来の悪いのが、頑張ってるからね。それにあてられたかね」

と応えた。

  • こういう関係って良いなぁ。強いお年寄りって憧れる。
  • いい関係の二人だなあ。ババアかっこいい!
  • 車いすおばあちゃんかっこいい。

「ジ・アンカーデス #1」



前回までのあらすじ:ゆとりのひろゆきの死後、今までのゆとりの反動で俄かに殺伐としだした番長グループ。
組織内の不和を解消するガス抜きとして生み出された、悪魔の娯楽とは――!?


「止めろー!止めろー!」
既視感のある装束に身を包んだ男が、磔にされている。
彼の名はシンクロナイザー。
この間任務中に謎の忍者に襲われ埼玉で死んだ、ロンリーバースデーの同僚だ。

悪名高き希望崎に、このタイミングで足を踏み入れたのが運の尽き。
番長グループに捕えられた彼に課せられたのは、ただの生贄だ。

番長グループ構成員が、一人一発ずつ彼を攻撃し。
観衆は何人目の攻撃で、生贄が爆発四散するのかを賭けるのだ。
これぞ、爆発四散トトカルチョ――ゆとりを完全に失った番長グループの編み出した、退廃的な催しである。

「優しい目をした誰かに会いたい」「囁いてくれよ側に居るよって」
周りには沈黙の声めいた書道がされた幟がはためき、会場の異様さを煽る。


《第一の挑戦者――一 三五》

「一一族の除け者ー!」
「捨てられた恨みを晴らしてやれー!」
「めげずに頑張れー!」

「わ、わしは自らの意思でこっちに来たのじゃ!仲間はずれにされたわけではないのじゃ!」
その一三五の必殺を期した一撃、それは――

「みーちゃんパンチ!」
……何の変哲もないパンチ!
攻撃力0では倒せるべくも無く、生贄は健在!

「カーッカッカッカッ!」
彼女をあざ笑う、次なる挑戦者!


《第二の挑戦者――夢魔》

「おるで。ビッチが」
「精気を抜くな……精気を抜かないでくれ…… 頼む……」
「変態ー! 生贄を犯せーーーー!!! その生贄をーーー!」

「ビッチ?レイパー?変態? 淫魔にはこれ以上ない褒め言葉よ!!」

夢魔が見せるのは、一体いかなる攻撃か――
突然服を脱ぎ捨てる夢魔。そのまま相手に覆いかぶさり――
「悪魔性術膣絞り!!」

何と攻撃ではなく、性技に走った夢魔!これは誰も予想だにしなかった事態だ!
会場のボルテージは最高潮だ!
戦士としての死ではなく、腹上死を狙うとはなんという非情な戦略か!

「悪魔に愛情などない!!」

彼女(彼?)の勝利は確定か?
またセックス最強とかいういつものダンゲロスとなってしまうのか!?
しかし、ここでとんでもない事態が起こる!

いつの間にか攻守が逆転している――!
生贄の男のユニーク・ジツにより、性能(性的な能力)をコピーされてしまったのだ!

「6を逆さにすると9になる…つまりシックスナインだ!!」
よく分からない理論だが、同じだけの能力を得てしまった今千日手となることは明白。
見てて飽きるし、よく考えたら一人一撃に反してる気もするので選手交代だ!

《第三の挑戦者――田中権左衛門家康》
「きた!家康きた!!」
「投げて!本投げて!!」

ここで本命登場!おもむろに魍魎の匣(文庫版)を取り出す家康。
「出た!田中さんの「殺人魍魎の匣」!!ドスもったチンピラ五人…こいつで半殺しにしたのは有名な話だぜ!」
生贄に投げつけようとし――

突然、制約的に女にしか投げれないのを思い出したかのようにその動きを止める。

「投げて!本投げて!!」
「勝負は投げないで!!」

本を投げるのをやめ、直接攻撃に切り替えるかと思われた家康だが、それすらしようとせず、帰り支度を始める始末。
彼に一体何があったのか!?

そして、おお……見よ!
あれだけ熱狂していた観客達が、今は白けきってお茶会を始め出したではないか!
すべては……そう、「ゆとり感化ガス」の影響である!

……

……

……急展開をお許し頂きたい!そして読者の為には説明も吝かではない!

説明しよう! 「ゆとり感化ガス」とは!
第一次ハルマゲドンにおいて、かがみによって希望崎学園に散布された化学兵器である!
ガス抜きは成功したが、ガス抜きは失敗していたのだ!
ちなみに、ゆとり粒子との関係性は目下調査中である!

磔にされた男を無視し、のんびりと菓子を頂く番長グループの面々。
「スイートクッキーおいしいです^^」
「ぐわーっ!……さよなら!」
極限状態で菓子を食うところを見せつけられるというのは、拷問の中でも相当凶悪なものだ。
この責め苦に遭ったシンクロナイザーは爆発四散!

「……誰が倒したことになるの?」
「…ルール的には大丈夫だったよね?」
「そもそももう賭けとかどうでもよくね?」
「スイートクッキーおいしいです^^」
「今回も俺のおかげで勝てましたね!!」

めでたしめでたし。

  • 安価SSをここまで違和感無く面白く仕上げるとは恐れ入りました。サスケネタで死にそうになったw
  • スイートクッキー・トーチャリングだと……なんと恐ろしい。安価SSとは思えぬ構成力、実際スゴイ!
  • 勢いがよい

蛇淵かわず作詞作曲『ああ振り向けばコミュ力』


その手を握るだけで体がしびれる
体に伝わる そのコミュ力
脳の言語野に伝播する 会話力

コミュコミュコミュコミュコミュニケーション

振り向けばコミュ力がすべてを支配している

おっとそこでそうきたか そう返してくるのか
ヤツのコミュ力は手強いぞ
そこで切り返す 私のコミュ力 くらえ! 必殺握手―!

コミュコミュコミュコミュコミュニケーション

振り返ればコミュ力で世界征服

さあそんな大ボスだって 友だちなってしまえば
世界の半分俺のもの~
そこで迎え撃つ 私のコミュ力 くらえ! 必殺笑顔ー!

コミュコミュコミュコミュコミュニケーション(3回繰り返し)

  • ドライブ感は伝わりました
  • かわずちゃんが唄ってるとこ想像すると非常に可愛らしいですが、歌詞がちょいちょい恐ろしいこと言ってて笑ったw
  • 蛇淵さん可愛い。

ごっつええダンゲ『フルアーマーの女 編』


希望崎学園保健室

一三五「みんな…ワシはもうすぐ死ぬんじゃのう……」
紫乃守「バカな事を言うんじゃない!」
三五「ウソじゃ!ワシは知っておるのじゃ!ワシはもうすぐ死ぬんじゃ!」(生き返るけど)
峰内「何言ってるの!今日はフルアーマーの人がお見舞いに来てくれるのよ」
三五「ウソじゃ!フルアーマーが来るわけが無いのじゃ!」
峰内「フルアーマーの人が来てくれるの」

ガチャ

ガション ガション ガション

フルアーマー純子「やぁこんにちは」
三五「ああっ!ホントじゃ!ホントにフルアーマーじゃ!」

純子「いやぁ、危うく今年は高機動型になりかけたんだけどよ……今年もフルアーマーだったぜ」
三五「おめでとう!」
純子「ああ」
三五「でもどうやってフルアーマーになれるの?」
純子「うーん、例えば局地戦仕様の奴がいるよな」
三五「うむ」
純子「しかし、そいつが局地戦仕様だったとしても、アタイはフルアーマーなんだぜ?」
三五「……?」
純子「羅漢学園の野球部あたりじゃアタイをヘビーアームズだと言っている男もいるが…とんでもない、アタイはフルアーマーなんだぜ」
三五「……うむ…」
純子「考えてみると…長距離支援型から始めさせられたんだぜ」
三五「左様か……」
純子「あの頃が一番辛かった。よく水陸両用のヤツにいじめられたぜ」
三五「へぇ~……」
純子「そのころいつも親衛隊仕様の家に泊まっていたよ」

三五「……フルアーマーよ、握手をしてくれんか…?」
純子「……がんばるんだぜ」
三五「……してくれたんじゃな」

純子「影平!」
影平「はい」
純子「アタイの去年の武装は!』
影平「フルアーマーです」
純子「今年は?」
影平「フルアーマーです」

純子「よしんばアタイがライトアーマーだったとしたら?」
影平「……フルアーマーです」

三五「……?ライトアーマーじゃないの?」
純子「……」

三五「フルアーマーよ、ワシもフルアーマーになれるかのう?」
純子「ハッハッハッハッハ……」
三五「……」

プルルルル
純子「失礼……もしもし?なに?アタイをライトアーマーだと言うヤツがいる?
そいつの装備は?……拠点防衛仕様の女だな……そんなに言っているのか?
……どんな言い方だ?…そうかわかった。すぐに行くぜ」
三五「…?」

ピッ
純子「失礼するよ」
影平「……」
ガシュン ガシュン ガシュン



三五「……フルアーマー…か……」


  • 面白かったけどこれ映像で見た事無い人にはサッパリ伝わらんでしょうw
  • 元ネタ分からんけど、やっぱり純子はフルアーマーじゃないって意見もあるんだw
  • 元ネタ知らなかったけど面白いw

『僕の名前 ~ワン・ステップ・ビフォア・ザ・タヌキ~』



『一三五は疑わる』の展開によって一 三五が番長Gに所属する理由が明らかとなった。

「これで一家との関係もわかったし、三五ちゃん……みーちゃんを疑う必要もないね!
血の絆はなんとやらとも言うし、やっぱり最終的には家族を大事にするのが道徳というか、
あれ……? ゲコーッ。とにかく、みーちゃんはいい人だよ!」

揺らぎ、刻々とカエル意見に自分で戸惑う蛇淵かわず。
「まあとにかく、これで番長グループも謎が解けて、みんな仲良くできるって
ことだ! ねーっ! ……ゲコーッ。」
「そ、そうだね」

ハイテンションにギターを振るかわずに、逆砧れたいたぷたは笑顔で同意した。
喜ばしい事だ。これで番長Gに大きな謎はない! 怪しい人物などいない。
淫らな夢魔や、やたら口数の少ない用務員さんはいるが、皆それなりに上手くやっている。
なお、逆砧れたいたぷたは出自のハッキリしない人物である。

どう見ても手芸部の関係者としか思えないニンジャは危険にも見えるが案外話が通じる。
一見女の子に見えるEA02は実はメカであるが、言動は暢気で棘もない。
なお、逆砧れたいたぷたはとりあえず1年生として通学しているが自分の年齢すら知らない。

歩峰鴿子は常に体からバサバサ音がして怪しいが、そのマジックは見事だ。
なお、逆砧れたいたぷたは何故か女の子に指を這わせる事があり、その手際には夢魔も
驚いたというのに、自分でも原因がわからないと言う。

なお、
(わ、私がいま一番アヤシイんじゃ……!?)
逆砧れたいたぷたは困惑とともにその結論に、いま至ったのであった。


―――


「……はあ」

ため息をついて購買でカルピスを飲む、れたいたぷた。彼女は若干粘性のある乳酸菌飲料
などを好んで飲む。それすら元々そうだったのかもわからないが……
自分は、何なのだろう。考えるほど深みに嵌まりそうになる。
と――表情に影を落とすそんな彼女に、声をかける者があった。

「どうしたんですか?」
「あ、えっと――夢追さん」

以前、番長小屋の近辺で見かけた少女であった。あの時ちょっと教育上よろしくない部位を
撫でてしまった事は、今でも申し訳ないと思っている。
その後相談に乗ってくれた事もあり、今では多少打ち解けた仲となっていた。

「なんだか暗い顔をしていたので。この間は人探しのお手伝いもして頂いたし、
何か力になれる事があれば!」

夢追は明るく言った。積極的でいい子だなあ、とれたいたぷたは思った。
れたいたぷたが自分の境遇を相談した時も、ファンタジーじみた内容にも関わらず
興味深そうに聞いてくれた。うっかり目まで輝いていた。それはそれでどうなんだ。

「やっぱり名前が気になるんですね……」
「はい、どうしても、、」
「そんな時は、突撃インタビューですよ!」
「……インタビュー?」

後に報道部員となる夢追の、その性格の片鱗であった。ヒントを持っている人がいないか
聞き取り調査を行えば良いと彼女は言う。――いや、夢追は「答え」には気づきつつは
あるのだが。あるいは、れたいたぷたの気を紛らわせようという、ささやかな優しさか。

「私も一緒に行きますから、ね!」
「ええ、なんか悪いですよ……」

「うーん、じゃあこうしましょう。代わりに、あなたの能力を見せてください!」
「えっ。でも私の能力は、人に対して使わないとあんまり意味が……」
「もし危険なものじゃなければ……(声をひそめて)私に使っていいですから」


―――


「す、すごい! 私いま、ドラゴンですよ! 宇宙からやって来たんです!
むむむ胸はその、あんまりないですけど機械で出来ていて、相撲も得意なんです!
斧さえあれば無敵のニンジャでもあるんですから実際強い!
ああ……お姉ちゃん、かわいいっ! か、勝手に手が、ヒャッハァー!
ご主人様! 金ならいくらでも出すからちょっと襲わせやがれー、うわわわわ!」

勝手に動く自らの手に引っ張られて、れたいたぷたに突進する夢追!
それもそのはず、彼女は今「金をいくらでも出すドラゴン宇宙百合メカ貧乳力士モヒカン
触手メイド妹斧忍者」なのだ!
百合かつ触手で、モヒカンでもあるのだから女の子がいたらそりゃ襲う。

「えっ、き、きゃぁー!」
どがしゃーん

あっさりと押し倒されるれたいたぷた。その指がもぞりと蠢いた。
日頃は彼女の精神的フートンに押し込められている謎の衝動は、女の子を見ると加速する。
ふざけて抱きつく女子とは往々に居るものではあるが、これは一線を越えてはいないか?
砂埃を巻きあげて2人は地面を転がった。ポイント倍点!


巨大な鳥類が割って入り、無理矢理2人が引き剥がされる事になるのは数秒後の事であった。

  • なんて事だ、出て来る女の子が皆可愛いじゃないか……!やはり百合は正義なのだ
  • 能力を忠実に再現するとこうなるよねw しかし数秒の間に一体どんな絡み合いが……グギギ……!

影平くんと仕官


放課後。
ハルマゲドンに備えた会議も終わり、番長小屋の面々はそれぞれ思い思いに読書や掃除やレイプや手芸をしている。
その中の一角にある小さなテーブルで、逆砧れたいたぷたと蛇淵 かわずがお茶を飲んでいる。

「……でね、影平くんにお礼をしようと思うの」
「影平くんに?どうしてー?」

逆砧の提案に蛇淵が首をかしげる。
影平は二人と同じ番長グループのメンバーだが、礼をしなければならないようなことはあっただろうか?

「うん、最近番長小屋の環境が凄く良くなったでしょ」

確かに、最近の番長は掃除もされているし壊れた備品が放置されていない。

「でも、それはヨタさんとか三五さんのおかげでしょー?」
「うん、確かにその二人が掃除してくれてるのも大きいけど、影平くんのおかげでもあるんだ」
「なんで?」

蛇淵が首をかしげると、逆砧はちら、と影平の方に目をやる。
見れば、影平は誰かの制服のボタンをつけているところだった。

「ああいうふうに、影平くん頼まれたら破れた服とか直してくれるから」

ああ、なるほど、と蛇淵は大きくうなずく。
本人は否定しているが、姿格好といい所作といい影平はどう見ても手芸部の関係者だ。
彼が所属するまで手芸部員が居なかった番長グループでは、その手の作業は彼が一手に引き受けている。

「そういえば、確かに私も直して貰ったかも」
「でしょ」
「でも、それにしたってなんで影平くんだけに?それならヨタさんとか三五ちゃんにもお礼するべきじゃない?」
「うん、そう思って聞いてみたんだけど。ヨタさんは「それは業務命令でしょうか」って取り合ってくれなくて」
「あー」

確かに、ヨタは固い。蛇淵のコミュ力でも友情を結べるか微妙なところだ。

「三五ちゃんは」

そこまで行って逆砧は少し恥ずかしそうになる。

「「友達なのじゃから、細かいことはいいっこなしじゃ」って」
「あー」

友達って言われただけで赤くなるなんて可愛いなあ。と蛇淵は逆砧を少し好ましく思う。

「だから、影平くんにお礼をしようかなって」
「それで、どんなお礼をするの?」

蛇淵に問われ逆砧は頭を振る。

「それが思いつかないから、かわずちゃんに相談しようかなって」
「そうか。分かった!ちょっと待ってて!」

蛇淵は席を立つと、影平の元へと歩いていく。
そして二言三言言葉をかわすと、じゃあねーと笑顔で影平に向けて手を振りながら戻ってきた。

「か、かわずちゃん?」
「ほしいものとかないって聞いてきたよー!」

予想外の蛇淵の行動に逆砧は目を白黒させる。
が、まあ、確かに本人に聞くのが一番早いかな、と思い直すと、蛇淵の話の先を促す。

「それで」

促された蛇淵は、影平の言葉を思い出しながら答える。

「えーっとね
『うーん、仕官先、かなあ……このご時世忍者需要も低くてねえ。
親は忍者として仕事してほしいみたいだけど、正直今のまま主君が見つからないと一般企業への就職も考えなくちゃならないかなあ……はぁ』
って言ってた!」

思わず逆砧は頭を抱える。
確かに本人にとっては切実な願いなのだが、常人にはどうしようも無い願いだ。
ましてや自分の記憶すらあやふやな逆砧に人脈を期待されてもどうしろ、というのだ。

「……かわずちゃん、どうしよう」
「大丈夫!私にいい考えがある!」

なんだか蛇淵がフラグっぽいことを言ったが、自分ではどうしようもない逆砧は聞いてみることにした。

   ●      ●

「影平くん!」
「ん?何か縫う?」

裁縫の手を止めて、影平は声の主に目をやる。
相手は同じ番長グループの蛇淵かわずだ。
それほど関わったことはないが、彼女のコミュ力の所為でそれなりに親近感を持っている。

「……蛇淵さん、なんか雰囲気変わりましたね」

ドヤぁ、とでも言いたげな顔で腰に手を当てて胸を張る蛇淵。
影平はそんな彼女をみて、まるで金ならいくらでも出してくれそうなオーラを感じる。

「どう?影平くん私に雇われない?」
「え?依頼ですか?」
「じゃなくて、私に仕えないって聞いてるの!」

突然の提案に影平は唖然とする。
確かに先ほど聞かれてつい仕官先がないことを愚痴ってしまったが、まさか番長グループの仲間から仕えないか、とオファーが来るとは思わなかった。
しかし、確かに今の蛇淵なら金ならいくらでも出してくれそうだ。
それにどうせ仕えるなら知らぬ相手より気心の知れている相手の方がやりやすい。
オファーを受けてしまおうか、と思って、影平ははた、と気がつく。

「蛇淵さん、報酬だせる?」

ドヤぁ、と再び胸を張る蛇淵。溢る金ならいくらでもだすオーラ。

「いや、真面目な話」

蛇淵の額に冷や汗が浮かぶ?

「無理でしょ?」
「だ、出したい所存ではあるよ!」
「現実問題だせないでしょ?」
「な、何故ばれた……」

ふぅ、と影平は息を吐く。
影平とて忍者修行をしているもの、動揺でもしていない限り幻術の類への耐性はそこそこある。
今回は幻術ではなく逆砧れたいたぷたの能力で「金ならいくらでも出す」属性を付与したというものであろうが、実際出せないのなら幻術と同じだ。

「うーん、ダメだったか。ごめんねー」

肩を落とす蛇淵に、影平は笑顔を返す。

「いや、気持ちだけでもありがたいですよ。逆砧さんにもありがとうと伝えてください」
「うん、邪魔してごめんねー。手芸修行がんばってねー!」
「……これは別に修行じゃないんですけどね」

苦笑いする影平に手を振りながら、蛇淵は影から様子を見守っていた逆砧のところへ戻っていった。

「ダメだったー」
「うん……ごめんね。私の能力の所為で」

れたいたぷたちゃんのせいじゃないよー、と蛇淵は笑うが、逆砧の能力が通じないとなると2人だけではもうどうしようもない。
どうしたものか、と頭を抱える2人。
そんな二人に、箒を抱えた人物が声をかける。

「ふー、掃除終わったぞー……ん?どうしたのじゃ二人とも」

肩を落とす二人の姿を一 三五は不思議そうに見る。

「うん、実はねー」

と言って、これまでの経緯を説明する蛇淵。

「なるほどのう……わしに協力できるかもしれんぞ」

   ●       ●

「OKだそうじゃー」

影平と会話をしていた三五は、結論が出たのか指でOKサインを作って蛇淵と逆砧に向ける。
三五曰く、神社のセコム代わりでよければ忍者と契約もあり、との事だった。
というわけで、影平と三五の二人で細かい契約内容について詰めてもらって、見事影平は三五に仕えることになったのだ。

「ボクとしてはありがたいことなんですけど、本当にいいんですか?結構馬鹿にならない金額だと思うんですけど……」
「なあに、セコムに払っていた金を考えればおつりがくるわい。その分、働きには期待させてもらうぞ?」
「ええ、まあ、ボクだけで24時間365日警備は厳しいので他の忍者が来る事もあると思いますが、それでよければ存分に働かせてもらいます」

うむ、よきかなよきかな、と三五は笑う。
影平は蛇淵と逆砧の二人にも頭を下げようとするが、逆砧は首を振りそれを止める。

「影平くんいつも頑張ってくれてるから、そのお礼だよ」

お礼?と不思議そうな顔をする影平を見て、蛇淵と逆砧はくすくすと笑った。

  • ニンジャも就職難の時代か……
  • 幼女の家に張り付いてお金貰えるとか、影平、おれと代われ!

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最終更新:2012年01月13日 15:26