ミーリエルの話 "The Shibboleth of Fëanor"より -The Peoples of Middle-Earth

(p333 L7 - p335 L22)

ミーリエル(Míiriel)はノルドール族のエルフで、ほっそりと優雅な姿形をし、心優しい気質をしていました。しかし頑固なところもあり、助言された り命令されたりするとよりいっそう強情になってしまうのでした。彼女は美しい声を持ち、優美かつ明瞭に話しましたが、打てば響くような受け答えのできるこ とが何より自慢でした。しかし一番の才能は何よりも手先の器用さで、誰よりも早く、微細で入り組んだ刺繍をすることができました。彼女はセリンデ (Þerindë="Needlewoman")と呼ばれるようになりましたが、それは奇しくもmother-nameと同じものでした。

フェアノールは母をこよなく愛していました。母と子は共に頑固であるというところ以外はかなり性格が違っていました。フェアノールは心優しい性質ではあり ませんでしたし、尊大で短気でした。自分の意向に逆らうものに対しては、母のようにじっと持ちこたえるのではなく激しく憤慨するのでした。彼は心も身体も じっとすることができませんでしたが、母と同じように、巧みな手先による細工仕事に完全に没頭することができました。しかし最後まで仕上げずに終わること も多かったようです。

ミーリエルは彼の衝動的な性質を見て取りFëanáro(spirit of fire)という名を授けました。生きている間、彼女はフェアノールをなだめたり思い止まらせたりさせるため何くれと助言を与えていました。ミーリエルの 死はフェアノールにとって変わることのない悲しみであり、この事と後に起きた出来事が元凶となり、やがてフェアノールがノルドールの歴史に災いをもたらす こととなったのでした。

ミーリエル・セリンデの死――永遠の地アマンでの「不死」の存在であるエルフの死はヴァラールにとって非常に憂慮すべき問題であり、ヴァリノールに最初に 落とされた暗い予兆でした。ミーリエルの死は自由意志によるものでした。つまり彼女は自らの身体を捨て去り、魂(fëa)は待機の間へと向かいました。そ して彼女の身体は眠るかの如く庭に横たわっていました。ミーリエルは、私は身体も魂も疲れきっている、私は平穏が欲しい、と言いました。彼女が疲れきって しまったのはフェアノールを身ごもったことが理由だと考えられていました。彼女はフェアノールが成人するまで耐えましたが、それ以上はもう耐えることがで きませんでした。

ヴァラールとすべてのエルダールはフィンウェの悲しみに心を痛めましたがうろたえはしませんでした。アマンの地において癒されないことはなく、彼女の魂と 身体が癒された暁には、それらは再び一体となり、至福の地で喜びに溢れた日々に戻ることができるからです。しかしミーリエルはなかなかそうしようとしませ んでした。夫や近親者からの嘆願が届けられても、ヴァラールからの真面目な助言に対しても、彼女は「まだその時ではありません」と言うだけでそれ以上の答 えませんでした。この件を持ち出されるたびに彼女は依怙地になって行き、とうとう誰の言うことにも耳を貸さなくなりこう言いました。「私は平穏が欲しいの です。ここにそっとしておいて下さい。私は戻りません。それが私の望みなのです」

ヴァラールは自分たちでは変えることも修復することもできない事実に直面することになりました。エルの子供たちの自由意志をねじ伏せることは許されなかっ たからです。そしてこのような場合、強制したとしても何の成果ももたらされることはなかったでしょう。ミーリエルに戻る意志がないと明らかになったとき、 フィンウェの嘆きは苦々しいものへと変化しました。彼は眠れるミーリエルの身体を見守り続けることをやめて再び元の生活に戻ろうとしました。彼は孤独のう ちにそこかしこをさまよいましたが、どこにも喜びを見つけることはできませんでした。

ヴァンヤール族のインディスという乙女がいました。彼女はイングウェの一族でした。ヴァンヤールとノルドールが親しく暮らしていた頃からインディスはフィ ンウェをひっそりと想っていました。フィンウェが孤独のうちにさすらっていたある日、フィンウェとインディスはオイオロッセの内側で再び出会いました。 フィンディスの顔はテルペリオンの光に輝いていました。その時、フィンウェはインディスの瞳を見、秘められていた愛に気づいたのでした。フィンウェとイン ディスは結婚する意志を固め、ヴァラールに助言を求めに行きました。

ヴァラールは、フィンウェを永遠に妻と死に別れたままにさせるか、二番目の妻を娶らせるかどちらかを選ぶことを余儀なくされました。前者の選択はフィン ウェにとって残酷で不公平であり、エルダールの気質に合わないものでした。では後者はというとこちらも掟に反しているように思えたのです。そしてヴァラー ルの中にはこの意見にこだわるものもいました。議論が尽された結果フィンウェとインディスの結婚は認められました。フィンウェが妻を失ったままであるのは 不当であり、ミーリエルが戻ることを頑なに拒否していることで彼女はすべての権利を喪失したと判断されました。というのも、ヴァラールの癒しを受け入れら れるのでなければ、彼女の魂(fëa)はヴァラールの力が及ばないほどひどく病んでいて事実上「死んで」しまっており、もはや再びエルダールの一族に生き て戻ることは不可能だったからです。

「それではミーリエルは世界の終わりまでそこに止まるがよかろう。フィンウェとインディスが結婚によって結ばれた時より、ミーリエルは今後意志を変えるこ とも選択することも、二度と肉体を持つことも許されない。彼女の肉体は速やかに萎えて滅し、ヴァラールはそれを元に戻すことはしない。エルダールに同時に 二人の妻は存在しえないからである」とマンウェは言いました。マンウェのこの言葉で疑念を持っていたものも得心がいきました。ヴァラールは皆、身体を癒し たり元に戻したりする力を持っていましたが、マンウェは魂を元に戻すことを拒否する権利をも持っていたからです。



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最終更新:2013年01月20日 22:16