キーアダン Círdan "Last Writings"より -The Peoples of Middle-Earth

(p385-386)

(グロールフィンデルの考察から派生して)

この名はシンダール語で「船大工」という意味であり、最初の三紀の歴史における彼の役割を表している。しかし彼の「正式な」名、彼の出身であるシンダール族での元々の名は一度として使われたことがなかった。第三紀の記録の中で(1000年ごろ)、キーアダンは中つ国の誰よりも遠くまでかつ深く未来を見通すことができたと伝えられている。エルロンド、ガラドリエル、ケレボルンでさえも例外ではないが、ヴァリノールからやって来たイスタリは含まれない。

キーアダンはテレリ族、つまりヴァリノールへ運ばれることはなかったがシンダール「灰色エルフ」として知られるようになった高貴な人々、のエルフだった。彼はテレリ族の王のひとりで大海を渡った者達の首長であったオルウェの血族だった。よって彼は、オルウェの兄でベレリアンドのテレリ族の上級王(ドリアスに撤退した後も)として知られていたエルウェの血族でもあった。しかしキーアダンとその民は、いろいろな点で他のシンダール族とは独特な点があった。キーアダンとその民は古称であるテレリTeleriの名を保持しつづけ(後期シンダール語でTelirまたはTelerrium)、後の世になってもより古風な言語を話すなどいろいろな点で独立した民族だった。ノルドール族は彼らを「波の民 Falmari」と呼び、他のシンダール族は「泡立つ海の岸辺の民 Farathrim」と呼んだ。

キーアダンが己の思考と技量を船作りに向けるようになったのは、大海の向こうへヴァンヤール族とノルドール族を運んで行った漂流する島の戻りを待っている間だった。というのもキーアダンも彼の民もだんだんと待つのに苛立ってきたからだった。それにもかかわらず、血族への愛情と忠誠ゆえに、行方知れずなり(中つ国を離れるため)海岸へやって来なかったエルウェの探索を行った者達を導いたのはキーアダンだったと言われている。かくしてキーアダンは自らの最大の望みである至福の地を見、オルウェと自分に最も近しい人々に会うことを諦めなければならなかった。悲しむべきかな、キーアダンが海岸に辿りついたのはオルウェに続いたテレリ族の殆どが出発した後だった。

伝え聞くところによれば、キーアダンがわびしく夜に海を眺めていると、遠くエレッセアの上にかすかに輝く光が見えた。「たとえひとりであってもあの光を追いかけるぞ! 船はほとんど出来あがっている」とキーアダンは叫んだ。しかしまさにその時、キーアダンの心にメッセージが届いた。そのメッセージはキーアダンたち自身の言葉で語りかけられ記憶されていたが、明らかにヴァラールの御言葉だった。そしてその声は、キーアダンの力と技術をもって大海の風や波を渡ることができる船が造られるにはまだ長い年月がかかる、とキーアダンに危険を冒さないよう警告した。「今は思い止まりなさい。そなたの業(わざ)がこの上なく価値あるものとなる日が来るであろう。そしてその業は永く歌に歌われることになるであろう」「仰せのままに」とキーアダンは答えた。そして彼は(おそらく幻の中で)白い船のような形の、頭上に輝くものを見た。それは空中を西へと向って行き、遠くへと消え去って行くにつれ眩いばかりの光となり、キーアダンの佇んでいた岸辺には彼の影が映し出された。

この出来事は、後にエアレンディルがキーアダンに弟子入りし、キーアダンの助言と助力を得て作りあげ、遂にはヴァリノールの岸辺に辿りついた船を予言するものだった。この夜より、キーアダンは、中つ国のどのエルフよりも抜きん出た予言の力を持つことになった。



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最終更新:2013年01月21日 21:04