サウロン虜囚時の話 "The Tale of years of the second age"より -The Peoples of Middle-Earth

 全ての王の中でも、最も尊大だったのが黄金王アル=ファラゾーンであり、彼の望みは全世界の王となることであった。だが、未だ彼は西方の諸王を畏れるだけの知恵は持っていたため、彼の考えは中つ国に向けられることとなった。その頃サウロンはヌーメノール内の不和を把握しており、彼が復讐を果たすために、それをどう利用しようかと考えていた。そこで、サウロンはヌーメノール人の港や砦を激しく攻め立て、彼らの支配下にある沿岸地域を侵略した。彼は、この事が黄金王の激しい怒りを招き、中つ国の支配権をかけてサウロンへの挑戦を決意するであろうことを予期していた。アル=ファラゾーンは5年の歳月をかけて準備を整え、終には彼自身が強大な海軍と兵器と共に出陣してきた。その軍容の凄まじさたるや、これまでに世界に現れたものの中でも、最も強大なものであった。

 もしサウロンが黄金王を中つ国におびき出し、そこで彼を打ち破ろうと考えていたのなら、その望みは彼を欺くこととなった。アル=ファラゾーンはウンバールに上陸した。そして栄華の絶頂にあるヌーメノール人の壮麗さと勢力が非常に強大だったため、彼らのその噂だけで人々は集まって服従を誓い、サウロン自身の下僕達は逃げ去ってしまった。しかしモルドールの地はサウロンにより実に防備を固めてあり、また非常に堅固に造られたため、サウロンは攻撃を受ける心配などする必要はなかったのだが、今や彼は疑念の中にあり、バラド=ドゥアでさえ最早安全ではないのでは、と考えていた。

 ここに至り、サウロンは計画に手を加え、策略を用いる事にした。サウロンは謙り、アル=ファラゾーンの前に徒歩でやって来て、彼に敬意を示し、許しを請うた。アル=ファラゾーンはサウロンを見逃すことにしたが、彼の称号を全て剥奪した上で虜囚の身とし、降伏と黄金王に対する忠誠の証に捕虜としてヌーメノールに連れ帰ることとした。

 「これは厳しい宣告だ」サウロンは言った、「だが偉大な王というものは、皆自身の意思を持たねばならぬ」
彼は強いられて服従しつつも、事が彼の計画通りに進んだことを密かに喜んだ。

 サウロンは優れた智慧と知識を持っていたため、最も慎重なものを除く全てを説得するのに、尤もらしい理由や言葉を紡ぐ事ができた。また、彼は望めば美しい姿をとることがまだできた。彼が囚人としてヌーメノールに連れて来られたのは3261年のことだったが、彼がそこに来て5年も経たぬうちに、彼の言葉は王の耳朶を捉え、王の深い助言役となっていった。

 『偉大な王というものは、皆自身の意思を持たねばなりませぬ』この言葉は、サウロンによる全ての助言に含まれた毒となった。王が彼が言うように求めたもの全てが彼の正当な権利となり、また彼がそれを手に入れるであろう計画が発案された。

 闇がヌーメノール人たちの心を覆っていった。彼らは守護者達に憎悪を抱き、彼らの上にいる唯一神を公然と否定するようになった。そして彼らは暗闇と、暗黒の王モルゴスを崇めるようになってしまった。彼らは巨大な寺院を築き、そこで邪悪な行いをした。彼らは残った忠実なる者達を拷問にかけ、虐殺し、焚殺した。彼らは中つ国でもそれを行い、西沿岸部は恐怖の話で満ち、人々は「サウロンがヌーメノールの王となったのだろうか?」と嘆いた。

 サウロンのヌーメノール人に及ぼす力が余りに強いため、彼が望みさえすればヌーメノールの王笏を手にすることができたのだが、サウロンが望むものはヌーメノールに破滅をもたらすことだけであった。ここに至り、彼は王に言った。「貴方が世界で最も偉大な王となるのに欠けているのは、西方の諸力が嫉妬と恐れから与えないでいる不死の命です。しかし偉大なる王は己の正当なる権利を手に入れなければなりません。」アル=ファラゾーンはその言葉を熟考したが、まだ畏怖の念が彼を留めていた。

 しかし王の中の王、黄金王アル=ファラゾーンも齢192歳を数えるに至って、消えゆく命を感じ、近づく死と崇拝する暗黒に消え去ることに恐れを抱いた。こうして彼はヴァリノール攻めのための膨大な軍勢を準備し始めた。その軍容の威勢は、彼が以前ウンバールにやって来た時の、巨大なヌーメノール製のガレオン船でさえ、漁師の漁船に過ぎないかのようであった。



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最終更新:2013年01月17日 22:16