生徒会SS



冥王星ちゃんプロローグSS~みにくいアヒルの子~



「ぐす・・・うぅ・・・どうして・・私だけぇ・・・」

冥王星は泣いていた。
遠く太陽から離れたところで。
自身の名前の由来にもなった太陽系の最深淵で。
溢れ出る感情を微塵も隠すことなく露わにして。
彼女の精神は擦り切れ荒んでいた。首の皮一枚で繋がっているかの様で、下手に触れたら壊れて二度と戻れなくなってしまいそうな、そんな危うささえ感じさせていた。

「私、何も悪いことしてないよ・・本当に・・何もしてないのに・・」

止めどなく口をついてくる言葉。小さく低い声ではあるものの、その言葉に込められた感情の熾烈さは悲鳴にも似ていた。悲哀、困惑、憤慨・・・その他諸々の感情が彼女の中で渦巻き、心の内は混沌の様相を呈していた。
恐らく自分が何を呟いているのかも正確には理解していないのだろう。
彼女がここまで恥も外聞もなく感情を曝け出すのは珍しいことだ。しかしそれも仕方ないといえよう。アイデンティティの崩壊にも等しい衝撃を受けたのだから。

「ひどい・・・あんまりだよぉ・・!私だけ、“準”扱いだなんて・・!」

2006年、地球において冥王星は「惑星」から「準惑星」として扱われるようになった。
その決定当時、本人はそんなことは知らず暢気に過ごしていたのだが、つい最近になって風の便りというか星の便りでその事実を知ってしまった。
冥王星ちゃんにとってそれは超新星爆発レベルの衝撃だった。
彼女にとって「惑星」として扱われていたことは何ものにも代え難い誇りだった。
その誇りが、矜持が天文学会の決定によって打ち砕かれてしまったのだ。

「嬉しかったのに・・木星姉さんや土星兄さん達と一緒に扱ってもらえることが・・何よりも。」

太陽を中心として周囲を彩る惑星の末席を飾れることがどれだけ嬉しかったことか。
地球に発見され「惑星」として認められたときは喜びのあまりいつもの二倍の速度で自転してしまいそうな程であった。
こんな太陽から離れた辺鄙な場所でも太陽光の暖かさを感じれるような気がしたのだ。
地球は他の天体と違い、珍しく「生命」が芽生え繁栄している惑星であった。
その点で太陽系全体から注目の的だったのである。
そんな惑星から同じ土俵である「惑星」として認められることは至上の喜びであった。

「こんなことになるなら・・・いっそ、地球に見つからずひっそりと存在していたかったよぉ・・」

そして準惑星への降格。
(天体としては)たったの76年で裏切られたようなものだ。
「絶望」という言葉は字面の通り「望みが絶たれること」で発生するもの。
希望があったからこそ、それが消滅したときの落差が大きいのだ。
初めて格下げの事実を知った冥王星ちゃんは半狂乱になり、今以上に悲惨な有様だった。
悲憤のあまり、公転軌道を捻じ曲げて地球に自身をぶつけてしまおうと考えたりもした。
しかし彼女は結局暴挙に出ることはなかった。
前述の通り、地球は「生命」溢れる貴重な天体。
冥王星ちゃんは「生命」という存在に非常に興味を抱いており、それを自らの手で潰してしまうのは憚られたのだ。
ただどこにも感情をぶつけることができず、やりようのない鬱憤だけが冥王星ちゃんの中に残ってしまった。

『冥王星ちゃん、気分転換にここから離れて他の惑星さんのとこにでもいってみたら?ちょっとくらい公転軌道から離れてしまっても誰も文句なんていわないよ。きっと』

衛星カロンがいたわしげに冥王星ちゃんに話しかけた。
カロンはいつも冥王星ちゃんの側にいた。いつから其処に居たかなど定かではないが、地球に観測されるよりもずっと前から一緒にいた。
今回冥王星ちゃんがふさぎこんでしまっている最中もずっと励ましていた。

「そんなことしたって・・・もう私は惑星じゃないから皆相手にしてくれないに決まってるよ・・!」

冥王星ちゃんの心の殻は依然と厚く覆われたまま。
彼女だってカロンが自分のことを心配して声をかけてくれていることは分かっている。けれども他の惑星から見放され孤独になってしまったという思いが強く、前に踏み出すことができないのだ。

『―――そうだ、僕は最近地球でつくられた「物語」に興味があってね。ひとつ個人的に気に入った話があるんだけど、聞いてくれるかい?』
「・・今、地球の話は聞きたくない」
『まぁそういわずに語らせてくれないかな?別に聞き流してくれても構わないからさ。』
「・・・うん、わかった」

カロンは最近何に対しても否定的だった冥王星ちゃんから肯定的な答えが返ってきたことに内心喜びながら、話し始めた。

『タイトルは「みにくいアヒルの子」っていうんだけどね。あるときアヒルの群れの中で、一際大きなみにくい子供が生まれたんだ。子供ってのは無邪気で残酷なものだから、アヒルの兄弟たちは自分と姿の違うその子をいじめちゃうんだ。家族のいじめに耐えられなくなった醜いアヒルの子は群れから飛び出してしまった。』
「・・・」(仲間はずれされた辛さは身にしみて分かるなぁ・・私も太陽系ではないどこかへいってしまいたいよ・・)

みにくいアヒルの子の境遇に自分を重ねる冥王星ちゃん。無言ではあるがちゃんと聞いてくれている様子の彼女に満足しながらカロンは話し続ける。

『ところがどこにいっても、みにくいアヒルの子は嫌われてしまう。どこにも居場所がないっていうのは辛いものだね。そんな状態で冬を過ごしていたら、そのうちその子は生きること自体が辛くなってしまった。そんな折に美しい白鳥の群れを見かける。アヒルの子はその美しさに吸い寄せられるように白鳥の群れに近づいていく。
「自分は醜いから近づいたら殺されてしまう。いや、むしろこんな美しいものに殺されて死ぬのなら本望だ。」
アヒルの子はそう思ったんだ。
死に際だけでも綺麗に終わりたいという考えは「死」がある生き物特有のものだけど、決して理解のできないものでは無いよね。天体でいえば大きな恒星とかは超新星爆発をするよね、僕たちよりも長寿の天体が消えてしまうのは悲しいけど最期を彩るに相応しい美しさがある。あれほど「有終の美」という言葉が似合うものはないと僕は思ってるよ。おっと、語りすぎてしまったね。話を戻そうか。
アヒルの子が白鳥の群れのいる場所に行くと、白鳥たちが近づいてきた。「醜い自分を殺しに来たんだ」とアヒルの子は思った。ところが白鳥のうちの一羽はこう言ったんだ。
「やあ、美しい新入りさんだね」
アヒルの子は呆然とした。殺されると思ったのに、まるで仲間を歓迎するような白鳥の態度はいったいなんだろうと。そこでアヒルの子は思わず聞いたんだ。
「え、美しいって・・僕が?それに新人というのは一体・・・」
「君は自分の姿をみたことが無いのかい?とても綺麗じゃないか」
白鳥はそう答えた。アヒルの子はふと水たまりを覗き込んだ。するとなんということだろうね、水面に写っていたのは白く輝く美しい白鳥だったんだ。本来アヒルではなく白鳥だったその子は冬の間に成長し、きれいな成鳥になっていたわけだ。
「新しい子が一番美しいね!」
白鳥たちは皆褒め称えたとさ。めでたしめでたし。どうだった?』

少し間を置いて、冥王星ちゃんがぽつりと言った
「・・・カロンはこの話のどこらへんが好き?」
『どこにも居場所のなかった子にも仲間ができてハッピーエンドになったところ・・かな?』
「私もそこが好きかな。いいなぁ自分の居場所ができて。私は・・・ぐすっ」

再び涙目になる冥王星ちゃん。カロンは慌ててフォローに入る。
『何いってるのさ、僕がいるじゃないか』
「カロンはいつも一緒にいてくれるから大好きだよ?でもこの広い宇宙の中で二人ぼっちっていうのは、少し、寂しいよ・・・」

その言葉に同意しながらも、自分だけでは冥王星ちゃんの心の隙間を完全に埋めることはできないのだと悔しさを噛み締めるカロン。
しかしそんな感情はおくびにもださず、カロンはゆっくりとやさしく語りかけた。
『僕だけじゃないよ。冥王星ちゃんの仲間は他にもいるよ。』
「そんなの嘘だよ!もう惑星じゃなくなって、準惑星になった私にカロン以外の仲間なんて・・」
『準惑星になったのは冥王星ちゃんだけじゃない。エリスさんやケレスさんていう新しい天体たちも冥王星ちゃんの仲間になったんだよ』
「あ・・・」
『それに冥王星ちゃんは準惑星の基準になったんだよ。凄いじゃん!まるで皆から美しいと言われる白鳥の様だ。』
その大仰な言い回しに冥王星ちゃんは思わず笑ってしまった。
「ふふっ・・それは言いすぎだよ」
『ううん、僕はこの全宇宙の中で冥王星ちゃんほど美しい天体はないと思ってるよ!・・・あっえっと今のは・・その・・・』
準惑星になった知らせを聞いて以来、笑うことのなかった冥王星ちゃんが笑った。それだけでもカロンは嬉しくて、思わず普段恥ずかしくて言えないようなことまで口走ってしまった。
「もうっ、カロンったら・・・」
言われた冥王星ちゃんの方も照れてしまい、人間の姿だったら耳まで赤くなっていたことだろう。

「・・・」
「・・・」

気恥かしさからか、二人は黙ってしまった。
沈黙が時間の概念を曖昧にする。一瞬か、あるいは長時間か。少なくとも、面映ゆい心地がしていた彼らにとってはこの空白の時間は一刻が重く感じられただろう。
やがて、思いついたように冥王星ちゃんが口を開く。
「――――少し、カロンがわざわざ地球の物語を話してくれた理由がわかった気がする。私を元気づけようとしてくれたんでしょ?。」
『・・・さてね、僕はただ気に入った話をしただけだよ?』
「くすっ素直じゃないんだから。でもありがとね、少し前に進む勇気がでたよ。」
『それは良かった。で、どうだい?他の惑星さんたちの所に行ってみるってのは。きっと僕とはまた違った方法で励ましてくれるよ。ちょっとした傷心旅行だとおもってさ』

そこで再び冥王星ちゃんの声音に陰りが混ざった。
「でも、姉さんや兄さん達は準惑星になった私のことを受け入れてくれるかな?」
『もー何か引っかかるとすぐ立ち止まっちゃうのは冥王星ちゃんの悪い癖だよ。それくらい気にせず体当たりしなくちゃ!』
「で、でも皆に拒絶されたら私・・」
『準惑星に決めたのなんて太陽系の中の「地球」の、そこに住む「人間」て生き物の、その中でも「天文学会」ていう一部の人間が勝手に決めたようなもんだよ。その決定に全ての人間が賛成したわけじゃない。きっと冥王星ちゃんのことを他の惑星さん達と同列に考えてる人間だっていっぱいいるさ。ましてや天文学会の決定によって宇宙で何か変化が起きたという事もない。宇宙的にはほんとにちっぽけな話さ。そんなこと、君のお兄さん達が気にすると思うかい?』

惑星の自転速度も、太陽の煌きも、何ひとつ変わってない。そんな当然のことさえ気づけない程に盲目になっていたのかと、冥王星ちゃんは激情に任せて塞ぎ込んでしまっていた自分を恥じた。
「気にしない・・・と思う。うん、そうだね。カロンの言う通りだね!。ごめんね、いつも迷惑かけちゃって。」
今まで薄暗く重い空模様を見せていた冥王星ちゃんの心の内は、いつの間にか日差しが射し込み軽くなっていた。
『ううん、ずっと一緒にいる冥王星ちゃんが元気じゃなかったら僕だってつまらないもの。また凹んだりしても、僕なりの方法で冥王星ちゃんのこと励ましてあげるから、心配しないで他の惑星さんたちに思いっきり感情をぶつけておいで。』
「うん。て、あれ?なんかカロンは一緒にいかないような口調だけど・・」
『・・・僕も一緒に行ったほうがいいのかい?』
カロンは少し逡巡してしまった。「二人だけでは寂しい」と言った冥王星ちゃんの言葉がふと浮かび、自分はかえって邪魔になったりしないだろうかと。しかし冥王星ちゃんはそんな憂慮など吹き飛ばすような、毅然とした態度で答えた。
「当たり前だよ!さっきはカロンと二人だけじゃ寂しいなんて言っちゃったけどホントはカロンのこと、みにくいアヒルの子にとっての白鳥の群れのような、自分を受け入れてくれる居心地の良い陽だまりの様な存在だと思ってるんだから!とてもじゃないけどカロンと離れて旅なんてできないよ。」
その言葉にカロンは一瞬息が詰まった。
(ただの衛星にすぎない僕のこと、冥王星ちゃんはそんな風に思ってくれてたんだ・・・)
そのときカロンの心を満たしたのは紛れもない歓喜と安堵だった。万感の思いを噛み締め、カロンも冥王星ちゃんに応じる。
『そっか・・君にそこまで言われたら行かない訳にはいかないな。じゃあ、善は急げっていうし、早速出発しないかい?』
「うん!あ、ねぇ道中時間がかかると思うからさ、地球の話、なんでもいいからまた聞かせてよ」
『んーどんな話がいいかな。旅を盛り上げるためにも、ちょっとハチャメチャな話がいいかな?――――そうだ、「ハルマゲドン」の話なんてどうだい?』


【END】

無題(学園坂正門)


「ふっ、なるほどね。彼女が敵に回ったか…こりゃツイてない。」
生徒会室のロッカーで緑色の学生服に身を包んだ男は呟いた。
学園坂正門は不運である。
しかし、その不運をネガティブには捉えない。
不幸を公言し、しかし努力することで希望崎学園屈指の実力を持ち得たフェンシング部のエースであり学園屈指の戦闘力を持つ魔人である。
他人の不運をその身に引き受ける体質、いや能力を持つ。
大会前に風邪をひくことは普通だし、乗った電車は事故で遅れる事も日常である。
その代わり彼の周囲にはささやかな幸運が舞い込んでいる。
しかし、彼の周囲に集まる友人たちは彼の能力ではなく友人を思う気持ちや人格に惹かれているといってもいい。
だから学園坂は自信の不幸を公言し笑い、他者の幸せを願うのだ。
「いつもヘラヘラ笑っているのが気に入らなかったのかな」
凛々島 トウナ。
学園坂のクラスメイトである彼女は、彼の天敵であった。
その不幸をネタにしているところが許せなかったのか。
学園坂の不幸は努力でどうこうできるものではない。
しかしそれでも凛々島の能力は学園坂を捉えた。
それは彼女の認識が学園坂の不幸を努力しない果の惰弱な結果と捉えたからだろう。
「まったく、厳しいね。融通が利かないなあ凛々島さんは。でも。」
学園坂は剣を手に取る。
本来ならば学園の生徒全てに幸せであってほしいと願うのが学園坂である。
しかし戦いを避けることはもうできない。
混乱を極める希望崎をまとめあげるには生徒会か番長Gの力が必要だ。
悲しいことだが最善である両者が歩み寄り手を取り合って難局を切り開く未来はない。
お互いに、犠牲を出しすぎたのだ。
「秩序を守るのは生徒会の役割だ、というのは僕にも融通が足りないのかもしれないな。」
能力の相性は最悪だ。
学園坂には実質魔人能力は無いといってもいい。
他人の不幸を引き受ける力ではあるが能動的に使いこなすものではない。
その魔人としての耐久力と腕力、そして剣技のみで実力者として立っている。
対する凛々島 トウナも努力の果てに高い戦闘力と手に入れた魔人である。
能力も、所謂魔人が一芸を中二力を能力として開花させることを考えれば、あまりにも対象が狭く、魔人能力としては微妙な部類に入るだろう。
お互いにその身体能力で希望崎屈指の実力者として名を馳せているのである。
だが凛々島の『キリング・ノーナッシング』が学園坂をターゲットに含めた事で両者の差は圧倒的に開いてしまった。
「ツイてないなあ、でも僕の不運はきっと誰かの不運を打ち消してくれる」
(たとえこの戦いで僕が死んだとしても。僕の死んだ世界で、それでも君は生きてゆくんだ)
心の中でつぶやいた言葉が誰に向けられた物なのか。
それを知る者は居ない。

“八百荊 -UNLIMITED ROSE GARDEN-”詠唱



頭が薔薇で 満ちている

火神が 攻めで 受けは 黒子

幾たびのコミケを越えて腐敗

ただ一度の原稿落としもなく、

ただ一度の完売もなし

描き手はここに孤り

紙の上でペンを走らす

ゆえに我が作品に 意味はなく

この頭は、無限の薔薇で満ちていた

FFD(兎守 境 前日譚)


「ここは……くっどうやら、また別の世界に来てしまったようだな」
そこは海の世界。
海賊のアジトで船を手に入れ危険な海域を進んでいった
空飛ぶサメや梅干しが襲ってきたが、サンダーに弱いので何とか倒した
途中でうさぎを手に入れた
「こっこれはリトルボーイとファットマンこれさえあればなにも怖くないぜ」
そして絶海の孤島にたどり着いた、
「わたしはセイレーン。この島に住む不老の人魚よ」
「くっ、そうだったのか許せん」
セイレーンは対象を1回休みにするので強敵だが
いつまでたっても登場しないので戦闘が始まらなかった
そこへ別の敵が現れた
「わたしはキャプテンシルバーフック2億D$の賞金がかけられた伝説の大海賊だ」
シルバーフックは無益な殺戮を好まない性格で、乗組員や乗客には手出しせず、特に女子供には紳士的な態度だったがなんとか倒した
するとうさぎが異世界への扉を作り出しそれを追いかけるとそこは別の世界だった

そこは核によって、何もかもが破壊された世界
「わたしたちは生徒会、この世界は番長Gが支配しています」
「許せないぜ」

ダンダンダン!To be continued

鬼龍院殺姫プロローグ


鬼龍院サツキは孤独であった。
両親がしたことといえば産んだことと名前をつけたことくらいである。

元々望まれぬ誕生、彼女はモノ以下に扱われていた。
常に何かを睨むような視線は、両親すら恐怖させた。
まともな愛情も教育も受けぬ者は、いったいどのように成長していくのだろう。
周りの子どもたちが読み書きを覚えていく中、彼女はまともに言葉すら発声できなかった。

彼女の両親がいなくなった。
どうしていなくなったのかはサツキには分からない。
新しい恋人ができて、借金取りに追われて、犯罪を犯して…確かな事は、彼女は捨てられたという事実だけである。

生きるためにその辺にあるものを口に入れた。
何もない時は持っている者から奪った。
ゴミを食べ漁っている幼い彼女が見つかったのはそれから一ヶ月後のことであった。
すぐに救急処置が行われ、孤児院に入れられる。

そこでも彼女は孤独であった。
生まれついての鋭い眼光はさらに周りとの距離を広めていった。
言葉が話せないということで虐められもした。
すぐに暴れるので怖がられ、煙たがられもした。

そんな状況でも彼女は「孤独が辛い」ということはわかっていた。
わかっているが、どうすればいいのかは分からないでいた。
自然と与えられるはずの愛情を貰ったことがないゆえに、愛情が何かを知らなかったのだ。
知らないからねだることもできない…彼女はさらに孤独になっていった。

ある日、四角い箱の中に奇妙なものを見つける。
真っ白でフワフワしたドレスに身を包んだ、金色の髪のツインテールの女の子。
その女の子が黒いタイツに身を包んだ乱暴者と闘っていた。

「ラジカル・マジカル・メイクアップ!ハニーナイトがお仕置きよ♪」

高らかに叫んだ女の子が、持っている棒を振り回すと、キラキラと星がきらめき
黒い奴らは悲鳴を上げながら吹き飛ばされていった。

『ニ、ニガ~!くっそー、ハニーナイトめ!覚えてろーっ!』
「何度悪さを企んだって、正義の味方ハニーナイトがいる限り、みんなの笑顔は渡さないわっ♪」
「それじゃあ、よい子のお友達たち!次回も応援してね!」

箱の中の女の子は、自分に向かって手を振りながら満面の笑顔を向けてくれた。

初めて見るものだった。
サツキには何を言っているのか分からなかった。
ただ、周りにいる自分と同じくらいの子どもたちが目をキラキラさせているのは分かった。
そして、自然と涙がこぼれていた。

サツキが「魔法乙女ハニーナイト」の名前を知ったのは、放送終了後から1年後のことである。
10年後、サツキは15歳になっていた…ような気がする。
今も変わらず孤独ではあったが寂しくはなかった。
自分の中に「ハニーナイト」がいたからだ。
ハニーナイトの笑顔はサツキにとって唯一の希望だった。
あの笑顔を思い出すと、心が温かくなった。
そして、いつか自分もハニーナイトのようになりたいと思っていた。
その強く蓄積された思いは、いつの間にか彼女の身体に影響を与えていた。

いわゆる「学校」に通いながらーとは言っても行くだけで何も理解できないし、それに対し特に周りも何も言わないがー
ただただ惰性の日々を送るサツキの前に転機が訪れる。

自分と同い年くらいの女の子がいた。
髪の毛をオレンジ色に染め、耳にいくつものリングをつけたその子は、3人の男に絡まれていた。

「てめぇ、調子乗っとたらアカンぞ、こらぁ!?」
「ここらはワイらのシマじゃ、よくも好き勝手やってくれたなぁ、ボケェ!犯っちまうぞ、おう!?」
『…く、くっそぉ、テメェら離しやがれ!タイマンで勝負っすよ!』
「おうおう、女がよう言うのぉ…おい、攫っちまおうぜ?」

女の子は殴られたのか、鼻血を出しながら髪の毛を捕まれ乱暴に振り回されていた。
その光景を見た時、サツキの脳裏に幼き日にみた、箱の記憶が蘇っていた。

…ふと気づいた時、自分はあの時見た真っ白でフワフワしたドレスに身を包んでいた。
そして、目の前には涙する少女と、黒いタイツの乱暴者がいた。

「…ハニーナイトだ!私はハニーナイトになったんだ!」

思った時には目の前の乱暴者に殴りかかっていた。
自分でも信じられないくらいの力が発揮できていた。
自分は今、憧れのハニーナイトになっているのだ!
ただただ、目の前の少女を助けるために、乱暴者を殴り続けていた。

ふと気づくと周りの風景は元に戻っていた。
目の前には血まみれで動かなくなった3人の男が地面に転がっていた。
そして、ふと上げた視線の向こうには、肩を震わせた一人の女の子が立ち尽くしていた。
一瞬でその状況を理解した。
しかし、その後の展開はサツキの予想を大きく裏切った。

「…パネェ、パネェっすよ、あんた!」

大きな声で叫ぶと女の子は自分に駆け寄り、そして両手で右手をギュッと握りしめてきた。

「あんた、めちゃくちゃ強いっすね!いやぁ、たまんねぇっす!助けてくれてありがとうっす!
…まあ、こんな奴ら、いつもはどうってことないんですが、今日はたまたま体調が悪かったっていうか…
あ、あたい、夏ヶ崎 麻姫(なつがさき あき)っていうっす!姉さんはなんて名前ですか?」

大きな口を開き、麻姫と名乗る女の子は腕をぶんぶん振り回しながら満面の笑顔で自分に語りかけてきた。

『…サツキ』

気づくとサツキは自分の名前をつぶやいていた。
思えば初めて自己紹介というものをしたかもしれない。

「サツキ…名前もパネェっすね!姉さん、その実力…さぞ名のあるお人に違いない!
突然で申し訳ねっすが、あたいを舎弟にしてくれねぇっすか!?」

しゃてい…シャテイ?
何を言っているのだこの子は?まったくわけがわからない。

『シャテイ…って何?』
「舎弟…っすか?えっと、難しいっすね。あたいが姉さんの子分になるってことっす!
子分ってのは…う~ん、そう、仲間っす!姉さんのためにあたい頑張るっす!」
『仲間…とも、だち?』
「…そう、そうっすね!大きく分けたら友達っていう言い方もありかもしれないっす!でも、友達ってほど対等じゃないっていうか…」
『友達…』

かつてハニーナイトが言っていた。
「よい子のお友達たち!次回も応援してね!」
友達…そう、友達。
ハニーナイトは友達に笑顔を向けてくれたのだ。

その言葉の意味は深くは分からない、しかし何か心に響くものを感じた。

『シャテイはよく分からない…でも、友達なら分かる…だから、友達ならいい…』
「えぇ!?あ、あたいが友達なんて、いいんすか!?あたいめっちゃ感激っす!」
『うん、これから友達…』
「あ!そういえば、サツキさんはどんな字なんすか?」
『…字…分からない』

まともに読み書きができない彼女は、自分の名前すら書けなかった。

「へぇ、う~ん、じゃあ、こういうのはどうっすか?
敵をぶっ【殺】す最強の【姫】で【殺姫】!はったりが聞いててめっちゃ強そうじゃないっすか?
それにあたいと同じ姫って漢字が入ってるっす!」
『…殺姫…』

歯をむき出しに目を細めた麻姫の笑顔は眩しかった。
こうして鬼龍院殺姫は2度めの誕生日を迎えた。

鬼龍院殺姫は孤独であった。
しかし、今は沢山の友達がいる。
憧れの棒も友達がくれた。
もう孤独ではなかった。

「悪斗女(オトメ)」と呼ばれるレディースは関西でも最大規模の組織へと成長を遂げていた。
そしてその中心には「撲殺乙女」の異名をもつ殺姫の姿があった。

「殺姫さん、お疲れ様っす!」
「お疲れ様っす!」

友達の声が響き渡る中、麻姫が号令をかけた。

「おう、お前ら、これからあたい達は関東に殴り込みをかけっるっす!
今まで好き放題されてきた関西の魂を、関東の奴らに見せてやるっすよ!」

大気が振動するかのような歓声の中、殺姫は思っていた。
私が悪者を退治すれば友達は喜んでくれる、友だちが喜んでくれるなら…私は孤独じゃない。

こうして「悪斗女」達は関東に向けバイクを走らせた。
後に東西戦と呼ばれる闘いにおいて、関東に核が落とされる3日前のことである。

フジヨシの妄想ノートより『放課後の野球部室』


===========


ある晴れた日の放課後。

夕陽に包まれたグラウンドでは多数の運動部が練習をしていたが、
その一角、野球部の部室ではある事件が起ころうとしていた。

「マツイ!いきなり何をするんだ!」

「何を言ってるんだ。ちょっと突き合ってくれっていったらホイホイきたくせに。
 お前はうちの部のマネージャーだろ。当然こっちの管理もしてもらわねえとな!
 今さら嫌がってももう止められねえぜ!」

「な、僕はてっきり今後の練習メニューの打ち合わせかと思ったんだ。
 そういうことなら僕はこの前の練習試合のデータ整理に戻らせてもらうよ!」

「止められねえって言っただろ!」

マツイはそう言って上野の服を乱暴に引き裂いた。
上野の白く男にしてはふくよかな胸が露わになりマツイは思わず生唾を飲み込む。

「へへっ。中々いい体してんじゃねえか!
 もちもちしててうまそうだなあ……っ!」

「ああっ……!だめだってば…………!」

野獣のように荒々しく揉みしだき、舐めまわすマツイ。

「はあっ…やめてよぅ…はあっ…はあっ……もういいだろう…はあっ…はあっ………」

「何を言ってるんだ。こんなのはまだお遊びじゃねえか。
 ようやく俺の自慢のバットの準備ができたってぇのによお」

マツイは上野の下半身に残った服をも丸裸にひん剥く。

「なんだ、てめえもすっかりその気じゃねえか…!」

「ち、ちがっ…これは………や、やめろーーーーっ!
 アッーーーーーーーーーーーーーーー!!」


(この先は18歳未満の方には不適切な内容が含まれていたので規制されました。
全てを読むにはワッフルワッフルと書き込んでください)

無題(緒方さん)

 諸井さんと衿串三(えりくし まふてぃーなびーゆえりん)が、
100万シーベルトの廃墟で向かい合う。
 一方は虚ろな目で。一方は緊張して銃に弾を籠める。
 一方がしゃぼん玉を作る! ふわりふわりとくらむぼんぷかぷかのしゃぼん!
 しゃぼん玉の泡言葉は「無邪気」か? 答えは「無常」「滅び」「虚無」! 
 玉虫色の光が移るしゃぼん玉。触れてしまえば、儚く消える。

 人の命などしゃぼん玉の如し!

「しゃぼん=人の命」
 ゆえにしゃぼんの破裂とともに、人は死ぬ!無常!
 これが諸井さんの能力『こわれもの』である。
 たしかに恐ろしい。
 だが、真に恐怖を呼び起こすのは、彼女が殺人を犯したとしても、へらへら笑っていることだ。
 へらへら。ケセラセラ。ああ、はかないパンツ。へらへら。
 そのふやけた顔に銃口を向ける三。
 三は元々Ξ(クスィー)である。
 だが、「衿串三」。少し「諸井さん」と「衿串さん」はかぶっている。
 だから味方に銃を向けるのだろうか?
 一方はへらへら。一方は真剣に――引き金を、引いた。
 ばきゅーん。
 ハズレ。
 ばきゅーん。ばきゅーん。
 ハズレ、ハズレ。
 へらへらする諸井さんが、ふらふらと避ける。
 避けるというより、むしろ「弾が避けている」ようだ(まるでトランスフォーマーのように)。
 ぱきゅーん。ばきゅーん。ばきゅーん。
 ハズレ、ハズレ、ハズレ。
 衿串三のスカートは左右たっぷり膨らんでいる。中身は鉛弾がじゃらじゃら。
 じゃらじゃらに近づくぷかぷか。
 しゃぼん玉は、衿串のポッケを『こわれもの』にした。
 スカートが半壊する。パンツが見える。
 パンツを履かない諸井さんが、近づいて言う。

「くーしーちゃーあーん。あれだよ、あれ。きみ、その、なんだ。
 あったじゃん、ことわざ。『二つ目に困る』みたいな」

「……『初心の人二の矢を持つべからず』?」

「あー。うん、そーゆー感じ。賢いね。
 あ、これ、イヤミじゃないからね。一年生同士。学力は同じ」

 衿串は胸元ポッケから弾を取り出す。
 特殊な家庭事情から「もうあきたよ」という金属ばかりで、
身の周りの金属は最小限に留めている。
 が、鉛弾は持つ。たくさん持つ。
 なぜなら、射撃の腕前は、めちゃくちゃ下手だからだ。
 さきほどの6連外しは、たかだか5mの距離である。
 それでも外す。
 数打ちゃ当たるの精神で鉛弾撃ちまくっていたが、
 衿串は、一つだけを込める。
『初心の人二の矢を持つべからず』
 そして撃つ。諸井さんの脳天を狙う。命中した。

 ところで、衿串三の魔人能力は『リードバルーン』という。
 人を殺すと良心の呵責に苛まれる、という残念系能力である。

 諸井さんに見事命中した。だが特に心の疼きはない。
「いっっったたぁ~~」
 着弾点をさすって、へらへらと笑う諸井さん。

 なぜ死なないか?

 原因は三つ。
 着弾点は、脳天ピンポイントではなかった(1mくらいなのに)。
 続いて、諸井さんの異常な頑丈さである。
 たとえ着弾の衝撃で内蔵やらなにやらがすごい事態になっても、OK。
 魔人とは言え、魔「人」。人は銃に撃たれれば死ぬ。これが常識である。
 が、その防御面だけを見れば、諸井さんは魔人の上位、転校生にすら匹敵するのだ!さすが耐久29!
 そして最後の一つは、
「実は鉛玉を使っていなかった!」

 上の文を読み直せば、「鉛弾」と「弾」の使い分けに気付くだろう(別に読み返さなくてもよい)。
 これは単なる射撃練習。BB弾でもペイント弾でも、とかく、殺傷しないよう配慮すべし(当然だ)。

 実弾なら死んでいるであろう諸井さんは、生死かまわぬへらへらで称える。
「ナイス命中おめでとう!7発中1発!でも、平均19%くらいなんでしょ?
 がんばれーって応援するから、もう一度……」
 ばきゅーん。ばきゅーん。ばきゅーん。ばきゅーん。ばきゅーん。
 命中!命中!ハズレ!命中!ハズレ!

 やがて弾切れ。
 命中率は3割ちょい(諸井さんの応援のおかげだろうか)。

 ちなみに、衿串の使っていた弾は、BB弾やペイント弾でもなく、
象をも殺すゴム弾でした(意味のないヒント→距離が「5m」→ゴム)(これがオチ)(オチてない)。

『2.14ガールズ・ウォー 裏』



 世の中には、バレンタインデーという慣習がある。女性から男性へ愛の告白を行い、チョコレートを贈るというものだ。
 告白とチョコレートの間には何の因果関係もないというのに、誰が考えたかは知らないけれど。
 だが、逆に考えてみる事も出来る。すなわち、チョコレートを贈る事で何も言わずとも暗示的に愛の告白が出来る。そう考えてみれば決して悪いものでもない。

 地下にある薄暗い私の自室には陽の光は届かず、昼も夜も無い。ただ、チョコレートの甘い匂いが漂うばかり。
 時を刻む古びた柱時計に目をやる。チョコレートよりも大好きなお兄さまが、もうすぐ学校から帰ってくる時間。
 ぶーん、と唸る小さな冷蔵庫を開けると、冷やして固めた手作りのチョコレート。
 甘くて少しほろ苦い、お兄さま好みの味のチョコレート。
 大きな鍋でコトコトと煮詰めた私のチョコレート。
 沢山の想いが詰まった大切なチョコレート。

 蛇口を捻り、二月の冷たい水で手を冷やす。自分の体温でチョコレートを溶かしてしまわないように。お兄さまの為なら、痛いくらいの冷たさもどうって事はない。
 チョコレートを取り出すと銀紙で包み、その上から赤い包装紙と金色のリボンでラッピング。この日の為に何度も練習していたおかげで、我ながら綺麗に出来た。お兄さまは喜んでくれるだろうか。

 階上で物音がする。お兄さまが帰って来たに違いない。床の軋み具合、足音の間隔。私にはそれで十分解る。
 朝のうちに今日は大切なお話がある、と伝えておいたから急いで帰ってきてくれたのだろう。
 なんて優しいお兄さま。
 他の家族と歓談するお兄さまの声。私は口下手だから、あんなに上手くお兄さまとお話できない。それが少し悔しくて、悲しい。
 でもお兄さまは、そんな私にも優しく接してくれるのだ。

 早く、チョコレートを手渡したい。
 早く、チョコレートを食べさせたい。
 そして、お兄さまに言ってもらいたい。
 ”よく頑張ったね””美味しいよ””ありがとう”って。
 そして、優しく頭を撫でてほしい。
 それだけで、私は幸せになれる。
 お兄さまの温かい笑顔が見られるなら、私はなんだって出来る。

 逸る気持ちを抑えて。
 私の心の塊を手にして。
 滅多に出ない自室を出ようとしたその時に。

 どすん、と床を叩くような、何かが倒れる音が聞こえた。


関連作『にのまえっ! 一の巻 2.14ガールズ・ウォー』
http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=817114

552名前:鮫氷しゃち

552 名前:鮫氷しゃち
こないだこんな状況に…

私…○
モヒカンザコ…●

 ○ ○ ○
 ○● ○
  ○○○
 ○ ○ ○

兎守境アナザーストーリー


古代ロンカ文明世界で戦闘兵器αと戦っていた兎守境は波動砲によって生じた次元の裂け目に飲み込まれαともども異空間へと放り出される。

 耳     耳  耳   耳  聞こえますか  耳   耳 耳    耳
     耳 こちらです  耳 耳      耳 耳    耳 耳    耳
   耳   耳  耳   耳 耳   あなたを待っています  耳  耳 耳
      耳   耳  耳   耳 耳   耳 耳    耳

謎の声に導かれるまま兎守は次元の間を彷徨い、幾つもの異世界を渡り歩く

モノクロの海が広がる虚数領域はコミュ力が支配する恐るべき世界。兎をダシにして会話の糸口をつかむことで初対面の相手の心をつかむ戦術で鮫氷しゃちの精神干渉を逃れることが出来た。
ハーレム世界では話しかけただけで女が次々と目をハート型に輝かせ、熱烈なアプローチを仕掛けてくる色気違いの世界。毎日のように兎守をめぐってドタバタが繰り広げられ、最終的には連続殺人事件にまで発展し、最大で80人いたガールフレンドが17人まで減った所でようやく事件は解決に至った。
異貌の神を崇拝する野伏の徘徊する世界では、異世界から降臨した兎守が「タブセ」神と勘違いされことから始まる祝祭と、そののちのおぞましい儀式に巻き込まれかけたところを辛くも逃げ出すことができた。
滅亡に瀕した古代中華王朝では邪悪な家臣の野望を未然に防ぐため無能な少年皇帝を連れて国中を奔走し、国難を救った。

そしてたどり着いた世界は冥王星の衝突により荒廃した世紀末

兎守「この先、Dangerous!命の保証なし、か。面白い」
鮫氷「行きましょう」
一「お兄様に何があってもチョコが守って差し上げますわ」
野伏『何があっても俺たちの絆があれば大丈夫さ(^o^)』
曹田「朕たちの力を見せてやるでおじゃる」
α「コーホー」

正門に佇むのは細身の剣を持つ少年
学園坂「悪いことは言わない。引き返したほうが身のためだよ」
兎守「そういわれてもな。僕も誰かに呼ばれてここまできたんだけどね」
学園坂「ということは君たちが…。申し訳ないが本当に君にヒーローの資格があるか試させてもらおう」

少年が合図をするとどこからともなく5つの影が現れた
マツイ「全てを飲み込むブラックホール打法の真髄、見せて差し上げよう」
フジヨシ「あざとい女は要らねえええ!惨殺、虐殺、大爆殺!!」
能見「この世界に神は居ない。だが代わりに俺様を信奉することを許してやる」
凛々島「私は能無しが大嫌いなんだよ。肩書きだけ立派で何も出来ないお坊ちゃんなんかがよぉ」
危険田「キヒヒヒヒヒ!ロボットだぁ、危険の匂いがするよぉ」


そして、屋上から彼らを見守るもう一人の男
制服をまるでイタリア製のスーツのように着こなす伊達男、その背後には空中に浮かぶ渦のような正体不明の物体
百道「ようやくやってきたようだね」
謎の声“ええ、そのとおりです”
百道「思ったより随分大勢のお着きだ。今回は賑やかになるね」
謎の声“なんだか、嬉しくなるようです”
百道「乾杯といこうじゃないか。やがてくる絶望、第十次ダンゲロスハルマゲドンにね」

「ダンゲロス男の演説」


諸君 私はダンゲロスが好きだ
諸君 私はダンゲロスが大好きだ

虐殺コンボが好きだ
1ターンキルが好きだ
アタッカー交換が好きだ 
引きこもり陣形が好きだ
増援が好きだ
シークレット公開が好きだ 
転校生が好きだ 
詰めダンゲロスが好きだ 
投了SSが好きだ 

希望崎で 妃芽薗で
時代劇で 古代で
国会議事堂で 宇宙で
絶海の孤島で 月面で
阿蘇山で 樹海で

ネット上で行われるありとあらゆるダンゲロスキャンペーンが大好きだ

新参のシークレット能力が悲鳴と共に敵陣の魔人を吹き飛ばすのが好きだ
精密に作り上げられた作戦が不可解な能力でばらばらになった時など心がおどる

範馬慎太郎の投げる競技用ハンマーが歩渡の頭蓋骨を粉砕するのが好きだ
意気揚々と飛び出してきた転校生をぶん殴って瀕死にした時など胸がすくような気持ちだった

謎のバステを付与されたアタッカーが敵の通常攻撃を無効化するのが好きだ
歴史上最強の転校生が煙になった羅宇を何度も何度も攻撃している様など感動すら覚える

敗北主義の生徒会達を行動不能にしてなぶり殺していく様などはもうたまらない
泣き叫ぶ捕虜達がたつきちの振り下ろした麺棒とともに金切り声を上げて自傷しばたばたと薙ぎ倒されるのも最高だ

哀れな甲賀忍者が雑多な戦力で健気にも突進してきたのをスカンク牛コンボが周囲1マスまるごと木っ端微塵に粉砕した時など絶頂すら覚える

転校生の即時行動でアキカンが瞬殺されるのが好きだ
攻め込むはずだった味方が何をしたらいいのかわからず右往左往する様はとてもとても悲しいものだ

クーデター軍の物量に押し潰されて出産するのが好きだ
子供を殺されそうになって害虫の様に地べたに這いつくばって命乞いするのは屈辱の極みだ

諸君 私はダンゲロスを地獄の様なダンゲロスを望んでいる
諸君 私に付き従う番長G戦友諸君
君達は一体何を望んでいる?

更なるダンゲロスを望むか?
情け容赦のない糞の様なダンゲロスを望むか?
鉄風雷火の限りを尽くし三千世界の鴉を殺す嵐の様なハルマゲドンを望むか?


『ダンゲロス! ダンゲロス! ダンゲロス!』


よろしい ならばダンゲロスだ


「ダンゲロス男より番長G全スタメンへ」
目標夢の島希望崎学園新校舎!!

第十次ダンゲロスハルマゲドン 状況を開始せよ


希望崎冬季花火大会

「あの、花火大会やってみたいです!」

―――そんな季節違いの発言が出たのは、生徒会の皆で生徒会室の書類整理などをしている最中のことであった。
声の主は冥王星ちゃん。手には、夏に希望崎学園で行われた花火大会のポスターが握られている。

『・・・冥王星ちゃん、花火大会ってのは普通夏にするんだよ』

「(え?そうなの?超新星爆発みたいで綺麗だと思ったんだけど・・)」

冥王星ちゃんの脳内で、現在は髪留めとなっている衛星カロンの言葉が響く。二人の会話はテレパシーのようなもので、他人に聞こえることはない。普段は地球の文化をあまり知らない冥王星ちゃんをカロンがテレパシーでサポートしているため、冥王星ちゃんが周りから浮いた行動をすることは少ないが、今回の発言は彼女の無知と好奇心が先走ってしまった結果といえよう。

生徒会の面々の反応といえば、呆然とする者、苦笑する者、微笑ましそうに見る者など。個々の反応は様々だったが、大半の人は呆れていた。その最たる人物である、凛々島トウナが咎めるように言う。

「まったく、何を訳がわからないことをいってるの!花火大会なんて冬にする訳ないでしょう。そんなポスターもう使わないから捨てちゃってよ。」

「え、あっはい・・すみません。」

しょんぼりする冥王星ちゃん。名残惜しげにもう一度ポスターを見た後、丸めてゴミ袋に入れる。その様子をみてトウナはやれやれといった風にため息をつく。
他のメンバーも自身の仕事に意識を戻し、多少気まずい雰囲気を残しながらもそのまま作業が続行されるはず、だったのだが―――

「いや、俺はいいと思うぜ。冬に花火大会をやるっていうのもよ。」

二人の美女を侍らせていた神田六馬が椅子から立ち上がり、冥王星ちゃんの方に歩みを寄せながら言った。冥王星ちゃんに興味が湧いたのか、新しいおもちゃを見つけた子供のように目を輝かせている。

「なかなか斬新な発想でいいじゃねぇか。面白い子だ。どうだい?うちの遊郭にきたら色々いいこと教えてやるぜ?」

「え、ええと・・」

六馬は冥王星ちゃんの前で立ち止まり、指先でそっと冥王星ちゃんの顔のラインをなぞるように撫でる。その動作に困惑してる彼女の反応を楽しむように六馬の顔に笑みが浮かぶ。
冥王星ちゃん自体は嫌悪感を抱かず、かと言って喜ぶようでもなくどっちつかずの反応をとっていたが、六馬の行動を快く思わない者がいた。

『・・このっ!冥王星ちゃんに気安く触るな!!』

冥王星ちゃんの髪留め(カロン)が弾けるように飛び、六馬に向かう。

「っと、あぶねぇ」
「あたっ・・・・ととと、うわぁ!」

しかしすんでの所で六馬は首を反らし避けた。髪留めは六馬の後ろにいた学園坂正門の額に当たる。更にバランスをくずした所で書類の山を踏んでしまい、紙を宙にばらまきながら正門は転んでしまう。

「(ちょ、ちょっと!もう、カロンたらなにやってるのよ!)」
『・・・ふんっ。あいつが気に入らなかったんだよ』

冥王星ちゃんは慌てて髪留めを拾いながらカロンの突然の行動を咎める。カロンは未だ不機嫌なまま。
カロンは本来冥王星ちゃんと同じく穏やかな性格で怒ることはまずないと言っていいだろう。ただ、「冥王星ちゃんの身に危険が迫ったとき」を除けば、の話であるが。六馬の行動はカロンの中でその条件に合致したのだろう。
冥王星ちゃんも自分のことを大事に思ってくれている故の暴走だと分かっているので強くは叱れない。しばらくカロンの機嫌は戻りそうにないな、と思いながら被害にあった二人の方に意識を移す。

「神田先輩、すみません・・」

「いや、いいってことよ。しかし怖いな、まるで君から俺を引き離すように髪留めが飛びやがった。守護霊でもいるのかね?まぁ、とにかく君を狙うのはやめておくよ。まだまだ俺は酒池肉林を楽しむつもりなんでね、守護霊やなんかの呪いで死んだりしたら悔やんでも悔やみきれない。」

「しゅ、酒池肉林だなんて破廉恥です!大体あなた、学校内に遊郭なんて風紀を乱すもの閉鎖してください!」

電導まぐねが神田六馬の言葉に反応し、後輩でありながら風紀を正すべく力強く非難する。しかし六馬は気にも留めず、むしろ新しい獲物を見つけたように目を輝かせてまぐねに近寄る。

「いいね~そういう生意気な態度。そそるよ」
「な、なななにするんですか!」

      • 六馬のこういった行動は今に始まったことではないので、生徒会の人々は呆れながらも見て見ぬふりをするだけだ。

「学園坂先輩もすみません!だ、大丈夫ですか?」

「あぁ、大丈夫だよ。これ位の不幸慣れてるから。それより神田に怪我がなくてよかったよ。軟派な奴だが彼も生徒会の大事な仲間だからね。」

「・・・」

散らばった書類を拾い集めていた凛々島トウナが無言で学園坂正門を睨む。自身の不幸を開き直って考えている正門が心底気に入らない、とでも言外に示しているかの様に。
 正門は困ったように笑う。正門はトウナのそういった態度はもはや仕方ないと受け入れつつあるのだが、それを言ったら余計にトウナの機嫌を損ねてしまいそうなのでわざわざ口に出したりはしない。

「相変わらず凛々島さんの僕に対する評価は手厳しいね。しかし神田の言う通り、冬に花火ってもなかなか面白いと思うよ。凛々島さんは反対かい?」

「当たり前でしょう。冬に花火大会をすることの善し悪しはともかく、今やっている生徒会室の書類整理とか、他にやることがいっぱいあるでしょう。」

「書類整理なんて、正直暇つぶしでやっているようなものだろう。みんな戦いを前にして落ち着かず、手持ち無沙汰だからね。地に足がつかないってやつかな?僕もそうだ。凛々島さんはそんなまとまりの無い僕たちをみて、書類整理をしようと誘ったんだろう?」

そう、何をするでもなく生徒会室でぼーっとしていた生徒会の人々を不甲斐なく思って生徒会室の整理をさせたのは凛々島トウナである。番長陣営を抜けて生徒会陣営に入ってからまだ日が浅いが、トウナは抜群のリーダーシップを発揮していた。最初はスパイではないかとも疑われていたがその自他に厳しい実直さを評価され受け入れられていた。

「それはそうだけど・・・でも生死を懸けた戦いを前にして花火大会だなんて悠長なことしてる場合じゃないわ」

「いいや、命を懸けた戦いの前だからこそ、だよ。もしかしたら僕たちがこうしてみんな揃って一堂に会することはもう無いかもしれない。何かしら思い出作りをするのもいいんじゃないかな、生徒会陣営の団結力を高める意味でもさ。書類整理よりも花火大会の方がよっぽど楽しいだろう?どうだい、他の人はどう思う?」

トウナに怒られない様に作業の手を緩めることなく、しかしちゃんと二人の会話を聞いていた様子の生徒会の面々を見回す。

「あのっ!私は賛成です。」

岡田さんが声をあげる。岡田さんは引っ込み思案であるが人一倍勇気もある。それは彼女の長所であり、また魅力でもあるだろう。

※「せっかく冥王星ちゃんがやりたいって言ってますし、それに皆で一つになって協力するのって楽しいと思うんです!」

学園坂正門はその言葉に微笑む。彼が花火大会をやりたい理由は岡田さんの言葉に集約されている。

「まぁ、核が落ちた後だからなぁ。番長陣営に核にトラウマ持つ奴とかいたら、花火のでっけぇ音でショック死させられるんじゃねぇか?面白そうじゃねぇか、ケケケッ」

「あぁ、それは楽しそうだな。吾輩も賛成だぜ。ぐははは」

紅水赤里と百道萌爾がそれに続いて賛成する。赤里は存在が「殺意」そのものであり、花火を風流に楽しもうというのではなく、言葉通り単に人を殺せるかもしれないという楽しみで賛成したのだろう。萌爾も死があふれる場所が魅力的だと考え、ハルマゲドンに参戦したのだ。そういう点でこの二人は気が合うのかもしれない。
 不穏な理由で賛成した者もいたが、とにかく三人賛成意見がでたことで意見を言いやすくなったのだろうか。他の人々も次々と賛成意見を述べる。

「私は反対だわ。花火大会よりもお兄さまに会ったりメールしていた方がよっぽど有意義に時間を過ごせるわ。」

一千四五ちゃんが勢い良く生徒会室のドアを開けてでていく。彼女にとっては兄が総てであり、兄と過ごす時間よりも楽しいものなどそうそうないのだろう。
 正門は苦笑するが、彼女がそうすることで精神の安定が得られ、万全のコンディションでハルマゲドンに臨めるのならそれも仕方ない、とも思う。

「まぁ、強制参加というわけでもないよ。ただ、ハルマゲドンまでの時間を楽しく過ごす方法の一つとして花火大会をするのはどうだい?って話さ。凛々島さんも一つの目標に向かって努力する、ってのは好きだろう?」

「・・わかったわよ。今回の負けよ。で、花火大会をやるにしてもどうするのよ?夏に開催した時は道具や花火師さんは外から借りてきたって話だけど。」

トウナが折れてくれたことでほっとする正門。しかし、希望崎学園には道具も何もないのだ。花火師だって核――正確には冥王星だが――が落ち荒廃した東京で探すのは至難の業だろう。現実的なトウナらしい指摘に生徒会の面々の表情が曇る。
だが正門だけは表情を崩さず笑みをたたえていた。

「そこらへんは心配ないさ。無いのならば僕達が作ってしまえばいい。なんたってここは魔人の集う希望崎学園だ。魔人能力をちょっと応用すれば花火だって作って打ち上げられるさ。」

「それは、なにかしら方策があると期待していいのかしら?」

「あぁ、存分に期待してくれて構わないよ。花火作成&打ち上げ要員としては、α、凛々島トウナ、ブラックホールマツイ、神風春雪、衿串三、矢塚焚也。そして当日のサポートとして衣ヶ衣衣衣とリズ=D=コジョンド。このラインナップで問題なく花火大会は開催できるよ。」

「・・・ふむ。あとはせっかくなら軽く食べれる食べ物がほしいわね。」

「そうだね。料理は残ったメンバーが担えばいいかな。あとは、全体の指揮を執る人が欲しいね。僕が思うに鬼龍院さんあたりが適任じゃないかな。」

「え?私・・?」

名指しされた鬼龍院殺姫はまさか自分が指名されるとは思ってなかったので、少し狼狽する。

「なんでも東西戦の時に関西最大のレディース『悪斗女』を率いていたそうじゃないか。その統率力を見込んで頼みたいのだけど、引き受けてくれるかい?」

「でも、私がリーダーをしたら・・皆死んでしまう」

「悪斗女」・・その単語が出てきたことで殺鬼はかつての仲間を想起する。
夏ヶ崎麻姫を始めとする自分を慕ってくれた友達。
初めてできた自分の居場所。
それがどれだけかけがえの無いものだったかは、言葉で語り尽くせるようなものではないだろう。しかし残酷にも東西戦で木っ端微塵に打ち砕かれた。「自分がリーダーなんてやったから・・」。それは東西戦後、常に彼女を襲う後悔と自責の念。殺鬼は生徒会に入ってからも抜け殻のようで、必要以上に他者と関わることをしなかった。

 今にも泣き出しそうに顔を歪める殺鬼を見て、正門は「東西戦」の名前を出したことを後悔した。話を聞いたわけではないが、大体の事情は察せられる。殺鬼が背負った悲しみが如何程かなど測る術もないが、友達思いの正門はその片鱗くらいならば分かる。不用意な発言をした自分に心の中で舌打ちをしながら、宥めるように努めて優しい声で殺鬼に話しかける。

「花火大会で生徒会の人々から死人を出す気はないよ。もちろん多少の危険性もあるけど、対応策も考えてある。だからその点は心配しなくていいさ。鬼龍院さんは生徒会に馴染めないというよりも、自分から拒絶してる節があるように思えるからね。この機会に少しでも生徒会の皆と打ち解けてくれるといいな、ていう思いもあるんだ。」

「僕も鬼龍院先輩の手伝いをするからさ。一緒にがんばろう?」

白金子狼が人懐っこい笑顔で殺鬼を見上げる。
殺鬼はその表情にかつての仲間達と同じ信頼の情を読み取る。
正門の声音からも本当に自分のことを心配してくれているように伺える。
ここにも自分の居場所はあるのかもしれない。自分のことを大事に思ってくれる仲間がいる。そのことに今更ながら気づいて――――ならば仲間の期待に答えなければ、と唇を噛み心の中で決意する。そして開いた口からは自分でも驚くほどすっと言葉が紡ぎだされた。

「うん。私頑張る!」

生徒会室全体が弛緩した空気に包まる。正門や岡田さんはもちろん、凛々島トウナのような堅物とよばれる人たちも心なしか頬が緩んでいるように見えた。
そんな中、一人だけ異論を唱えるものがいた。曹田奐輔である。

「ちょっと待ったー!全体の指揮を執るのは皇帝である朕がふさわしいでおじゃる!」

奐輔は学園坂正門と凛々島トウナの間で自分を置いて話が進むことすら不快だったのだ。ましてリーダーの座に他人がつくなど彼には我慢ならなかったのだろう。

これにはさすがの正門も対処に困る。正直奐輔に全体の指揮を任せたらチームワークが瓦解するような気さえしている。

「うーん・・鬼龍院さん、どうしたらいいと思う?」

「ええと、花火を作るにしても材料はいると思う。あと食材も必要、かな?その材料調達班のリーダーに曹田をあてるっていうのは?」

「ナイスアイディアだ鬼龍院さん。僕の期待したとおりだよ。じゃあ奐輔はそれでいいかい?材料が集まらなきゃ何も始まらないからね。大事な役目だよ。」

「なるほど、大事な役目か。よかろう!その役割、朕が引き受ける。」

奐輔が得意げに鼻をならす。自分がリーダーにつけるというだけでここまで興奮する人物もそうそういないだろう。口車に乗せられて得意げになる辺りは傀儡であった前世から進歩していないようにも思える。

「よし。じゃあ大体配役はきまったね。特に決まっていない人たちは各々自分がやりたいと思うところを手伝ってくれ。鬼龍院さんに指示をあおってみたりしてもいいと思う。開催日は、準備期間を考えると一週間後がいいかな。一週間後の屋上で、花火をうちあげようじゃないか。じゃあ、鬼龍院さん初仕事だ。作業開始の合図をしてもらえるかい?」

殺鬼は「悪斗女」での夏ヶ崎麻姫の号令を思い出す。引っ込み思案な性格だから号令は彼女にまかせっきりだったな、と懐かしい日々を思い出して笑みが溢れる。
――――今度は自分で動くんだ。
渾身の力をこめて叫ぶ。

「お前らぁ!ぜってぇ花火大会成功させるぞォ・・!!」

生徒会の人々もその気迫に、思いに応えるようにそれぞれの思いをこめて返事をする。

「「「おおぉー!!!」」」

それぞれが自分がやるべき仕事をするべく生徒会室をでていく。

誰もいなくなったと思われた生徒会室。
ぷかぷかと浮んでいるシャボン玉が、ぱちんと割れる。
今まで椅子に座ってぼーっとしながらタバコのようにシャボン玉をふかしていた諸井さんだ。
彼女はシャボン玉の割れる音で現実に引き戻されたかのようにはっとして、生徒会室を見回した後、首を傾げながらぽつりと言う。

「あれ・・・皆は?」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

――――――希望崎学園冬季花火大会当日。

校舎の屋上に生徒会メンバーと、核を落とされながらもなんとか生き残った少数の一般生徒が集まっている。
 空模様は良好。雲ひとつなく、太平洋側の冬特有の乾いた風も穏やかである。冬にこの表現がふさわしいかは甚だ疑問だが、花火日和といえよう。

「すごいねー。冥王星ちゃんの言葉がきっかけで開催が決まった花火大会、もうすぐ花火が打ち上がる段階まできたよ~」
「えへへ、あの時岡田さんが賛成してくれたおかげだよー」

花火大会の準備を通してすっかり仲良くなった冥王星ちゃんと岡田さんが雑談している。控えめで穏やかな性格同士、気の合うところがあったのだろう。

「うーん、でも寒いね。こうも寒いとずっと花火を見続けるの辛い気がする・・・」

「学園坂先輩は寒さ対策もしているといってたけど、どうするんだろう?」

先ほど花火日和といったが、気温は冬の平均レベルでありとても快適はいえない。回りを見渡せば他の生徒達も肌を刺す寒さに身を震わせている。

「―――そのために、私が当日のサポートとして選ばれたのさ。」

「あ、衣衣ちゃん!」

二人の会話に混ざるように後ろから声をかけたのは、衣ヶ衣衣衣。

「まぁ見ててご覧よ。私の、ファッションセンスをさ!」

衣衣がパチンと指をならす。
するとなんということだろう。屋上にいる全員の服装が鮮やかな浴衣に変わる。
衣衣の魔人能力、「奇装転鎧」の応用である。いささか露出が高いのは衣衣の趣味だろうか。

「わっ凄い!ちょっと肌が見えちゃって恥ずかしいけど、可愛いねーこの浴衣。」
「うんうん、男の子の浴衣もかっこいい感じだね。でもなんでだろう、露出が高い割には制服よりも暖かい気がするよ?」

「ふふん、そこらへんは私も考えてあるからね。一見露出が高いが腹部などの冷えてはこまる部分の布が厚くなっていて、冷たい空気が入らないようになってるんだ」

衣衣が得意そうに語る。自分に活躍の場が与えられ、ついでに自分の趣味にあう服装をッ皆に着せられて満足なようだ。
そんな衣衣につかつかと早足で近寄ってくる影があった。

「ちょっと!これやったの衣衣さんですか!こんな露出が激しいのは破廉恥です!風紀を乱しますからもっと露出が控えめなものにしてください!」

電導まぐねである。彼女を顔を真っ赤にしながら衣衣をまくし立てる。どうやらクラス委員としてご立腹なようだ。

「えーまぐねちゃんその格好可愛いと思うんだけどなぁ。あんまり文句言うともっと露出が高いのに変えちゃうぞ~」

「ひゃ、ひゃあ!やめてください!」

そんなこんなで花火打ち上げの時刻がやってきた。
学園坂正門がマイクをとり、挨拶をする。

「皆さん、ついに打ち上げとなります。発案者である冥王星ちゃんにはぜひとも感謝したいものです。そして皆それぞれ準備に貢献してくれたが、特に衿串さんの金属知識がなければわずか1週間で花火を作り上げることはできなかったでしょう。皆さん、冥王星ちゃんと衿串さんに盛大な拍手を!」

「わ、わぁ・・!」

「ふふーん、私にかかればこんなもんです!」

大勢に拍手を向けられ、困惑する冥王星ちゃんと「くしーちゃん」こと衿串三。この大会で使われる予定の総ての花火を設計し作り上げたのがくしーちゃんなのだから僥倖ものであろう。

「では、早速打ち上げと行きましょうか。」

打ち上げの一発目、その重要な役目を担うのはαである。既に主砲には花火がセットしてあり、反動で吹き飛ばないように床に固定されている。

「デハ、皆サンノ期待ニ応エテ、イキマスヨー!!」

一瞬、屋上の空気が静寂に包まれる。誰もが「うまくいきますように」と祈り、固唾を飲んで見舞っている。

――――空気を振動させる音と共に一筋の線が空に刻まれた。
そしてある程度の高度に達すると、弾けるように満開の花びらが夜空に咲き乱れる。

「やったっ!」

思わず口をついて出たと言わんばかりの声は誰の声であっただろうか。続いて歓声と拍手が屋上に響き渡る。そこには安堵と歓喜の感情が満ち溢れていた。

「まずはうまくいったようだな。よし、俺達も練習の成果見せてやろうじゃねぇか。頼んだぜ、マツイ先輩」
「おう」


2発目は矢塚焚也とブラックホールマツイ。
普段あまり関わらないような二人だが、今回は能力の相性でこの組み合わせが選ばれた。準備期間中は日が暮れるまで打ち上げの練習し、二人の間には信頼関係が芽生えている。

「よっしゃ、いくぜ!」

焚也がそっと野球のボールを投げるように花火の弾をマツイの方に投げる。
マツイはくしーちゃんによって強化された金属バットを持ち、投げられたものを真芯に捉える。

そして――――バットと花火の弾が触れる瞬間、矢塚焚矢が左手の指を思い切りパチンと鳴らす。
「因死祢冷凍」・・・指を鳴らすことによって発火させる能力である。
焚矢によって導火線に火がついた花火はマツイの強力なバットの振りによって天に吸い込まれるように一直線に飛んでいく。

開花。
一発目よりも大きい、しだれ花火である。
「おぉ・・」と嘆息する声が聞こえる。

「やったぜ!」

焚矢とマツイは軽くハイタッチをした。


続く三発目を打ち上げるのは神風春雪。すぅ、と軽く息を吸い、火のついていない玉を渾身の力で真上に投げる。

「爆裂四散は、男の美学ッ!!」

投げたものが速度に比例して爆発するその能力は今まで春雪にとって不便でしかなかったが、ここにきて役立ったと彼は歓喜に打ち震える。

「形を維持できないやつ!!」

更に、春雪の打ち上げた弾が爆発する前にもう一つの玉が打ち上がる。今度は既に着火された玉。
打ち上げたのは凛々島トウナ。
彼女の投擲能力は魔人としては少し不安定である。そこで使われたのがホーミング能力。
春雪の投げた玉を、「形を維持できないやつ」と能力対象に指定することで追随するように真上に飛ばすことができるようになったのだ。方向さえ合っていればいいので、実際に春雪の投げた玉にあたる必要はない。
 彼女が普段使っている鉄球よりも軽い花火の玉は高速で飛んでいく。これはトウナの日々の努力の成果といえよう。

時間差で打ち上げられた二つの花火は、パラパラと音を立ててカラフルな二連星を描く。

そしてまた5発目はαが打ち上げる。基本的に打ち上げはこの5人でローテーションで回していくことになる。
屋上は誰も彼もが興奮し、笑顔であふれていた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~


電気の消えた薄暗い生徒会室の中、上野良亀は大きな音に驚き、そっと引きこもっていた自分の皮の中から外を覗く。
窓から見えたのは、綺麗な打ち上げ花火。

「わぁ・・」

良亀は素直に感動する。引きこもり気味な良亀だが少年のような感受性はちゃんと残っている。いや、引きこもっているからこそ心は幼い少年のまま時が止まっているのかもしれない。

「ひゅー!綺麗だねえ」

食い入るように窓の外を見つめていた良亀は誰もいないと思っていたので、いきなり聞こえてきた人の声にびくっとなる。
明るい雰囲気の可憐な容姿を持つ女子高生であった。その名は鮫氷しゃち。

「良亀くん、皮の外にでてくるなんて珍しいね~ ねぇ、せっかくだし友達にならない?」

「・・・・」

突如そんな誘いを受けた良亀は、首をぶんぶんと振ってまた皮の中に閉じこもってしまう。彼が閉じ困った原因は彼の幼馴染にあり、人と関わることを良亀は拒絶している。もしかしたら彼の幼馴染と鮫氷しゃちの雰囲気が似ていたのかもしれない。

「あらあら・・」

鮫氷しゃちは内心舌打ちする。
部屋で美少女と二人きりとなれば、その機会を利用して仲良くなろうとするのが男の性だと思っていたのだが。友だちになり、そこからつけこんで彼女のドッペルゲンガー、あるいはフォロワーにしようという作戦だったのだ。
しかし彼女のコミュ力も、心身共に閉じこもった良亀には効かなかったようである。

「ま、花火とやらを楽しみますかねぇ・・・」

つまらそうに窓枠に手をかけながらしゃちはぼーっと花火を見る。しかし本当はつまらないという感情さえ持っておらず、花火を楽しむ気も、花火を楽しむ心も持ち合わせていないのだった。
それでも彼女はまるで感情があるように振る舞う。それが鮫氷しゃちの生き方だった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

次々と花火が打ち上がり、場の雰囲気も盛り上がっていた。

そんな中、一陣の風が音を立てて吹く。下からメモのような紙切れが大量に巻上がってきた。これもまた不幸か、正門の顔にその紙が張り付いてきた。
殴り書きのような汚い字で、「天を揺るがす怒号、神の怒りだ!みな逃げるのだ!」と書いてある。
紙が舞い上がってきた階下を覗いてみて、正門は苦笑する。

「なにやってんだかあいつらは・・・。まぁ楽しそうっちゃ楽しそうかな」

紙をばら撒いているのは自由ヶ丘の野伏たち。花火の音におどろき、花火を彼らの進行する神の怒りだと勘違いしたのか彼らは慌てふためき、点々ばらばらに散っていた。

「お、そろそろ料理もできあがったかな?」

香ばしい匂いが鼻を突く。
屋台風にこしらえた調理場で、焼きそばやたこ焼きなどの食べ物も出来上がっていたようだ。

「男の熱い料理、満を持して完成じゃあ!」

料理班長は麦田しげる。意外にも、彼の料理は豪胆でありながら絶妙な味加減がなされていて生徒達の心を鷲掴みにしていた。
しげるは料理の配布を他の料理班の人にまかせ、ある物を持って矢塚焚也のところへ向かう。
さすがに能力の連続使用はきつかったのか、多少の疲れが見える焚也。
しげるは焚也に持ってきたものを差し出す。

「確か、タンドリーチキン好きだって言ってたよな。おぬしの為に作ってやったぞ」

「お、おぉ・・!すまないな。だが今ちょっと手が離せないから皿ごとそこに置いといてくれないか」

「なんだと!?料理は熱い食うのがうまいに決まっておろう!ほら、ワシが食わしてやるから!」

「い、いいって・・!ちょ、熱いって火傷するっての!」

無理やり口に放り込もうとするしげると抵抗する焚也。
それを見て、にやりと笑うものが一人。

「ほもぉ・・・・」

フジヨシである。敵陣営に女ばっかりで嘆いていたが、自陣営の男たちで欲求を満たすことにしたようだ。
二人を見ながら、にやにやしていたフジヨシ。
しかし何か迫ってくるような音を聞き、上を見上げる。
なんと、花火の破片が迫っていたのである。

「きゃあっ・・!」

女を捨てていると自負していた割には、随分と女の子らしい声が出た。そんなギャップがまた素晴らしいが、作者の趣味を語っている場合ではないので自重する。
魔人である彼女は決して身体能力が悪いわけではないが、飛来する破片を避けるには少し時間が遅かった。

「Royal Guard!!」

哀れフジヨシ!勇猛な腐女子だった彼女の命はここで潰えてしまった!・・・・とはならなかった。
幼い声がフジヨシの耳に入ってきたのと同時に、破片がはじかれる。

「お姉さん大丈夫?」

リズ=D=コジョンド。彼女の災害から人を守る能力がフジヨシを救ったのだ。心配そうに幼女が覗き込んでくる。その可愛らしさに思わずフジヨシはときめいてしまった。

「あ、ありがとう・・。大丈夫よ」

「よかった!じゃあまた誰かが危ない目にあったら困るから、見回り継続~」

そう言ってリズは鼻歌を歌いながら去っていく。
幼女もいいかもしれない・・・。この一件によって、腐女子でありながらフジヨシがそんな密かな思いを抱くようになってしまった。幼女恐るべし!!


一方、たこ焼きをおいしそうに食べていた冥王星ちゃんと岡田さん。

「もぐもぐ・・美味しいね~このたこ焼き。」

「うんうん、表面はカリッと!中はふわっと!って感じだね。でもこれ、生徒会の書類を整理していた時にでてきたたこ焼きのレシピで、なんでもパンドラ関西子って昔の海賊が考案したものらしいよ。でもそんな昔にたこ焼きってあったのかなぁ・・?」

「あはは、なんかオーパーツみたいな感じだね。んーちょっと甘い物が食べたくなってきたなぁ。」

何気なくつぶやいた冥王星ちゃんであったが・・

『―――甘いモノをご所望ですか?』

「え?」

頭の中に誰かの声が聞こえる。明らかにカロンの声ではない、別の何か。岡田さんを見ると同じく首を傾げていた。屋上にいる誰もがにたような反応をしていた。

『チョコなんていかがでしょう。屋上の入り口を御覧なさい』

ふと、屋上の入り口を振り返ってみる。
すると入ってきた時にはなかったラップのかけられた数枚の皿があり、大量のチョコが乗っていた。

学園坂正門が不思議そうに近寄ってみる。少なくとも見た目上はなんの変哲のないチョコだ。

「ほぉー。おいしそうなチョコだ。どう思う、凛々島さん?」

「いきなり怪しい声が聞こえてきて、チョコが置いてあったなんて明らかにおかしいでしょう。もしかしたら番長陣営の策略かもしれない。『危険』極まりないわ。」

「危険だって!?」

トウナの言葉に危険田わたれが反応する。
しまった―――とトウナが後悔するも、もう遅い。
わたれは松葉杖をなげだし皿に飛びつく。ラップを開けてがつがつと食べ始める。
しばらく食べたあと、ぴたっとわたれが静止する。

「や、やっぱり毒だったんじゃ・・」

岡田さんが顔を青くして呟く。
だが岡田さんの不安は無用だったようだ。
わたれは不満足そうに呟く。

「なぁーんだ、普通の美味しいチョコじゃんか・・全然危険じゃないよ・・」

一同はほっと胸をなでおろす。
奇しくもトウナの失言とわたれの本能に従った行動によって、チョコの安全性が確かめられた。

「よし、じゃあデザート代わりに皆でこのチョコをわけあおうか。」

学園坂正門の言葉に、屋上に歓声が巻き起こる。
おいしいおいしいと、異口同音に唱えながら誰ともしらぬ人が作ってくれたチョコを美味しそうに頬張る。

―――――その喧騒を、一千四五は屋上の入り口の扉に続く階段で聞いていた。

千四五が兄と過ごす時間が花火大会よりも有意義だと発言したのは心からの本心であったが、少し後味悪く思えて、少しだけならと兄に送るチョコの試作品を誰にも見られぬようにこっそり屋上の入り口に置いたのだ。

『よかったですね』

謎の声が頭に響く。最近、怪しい声が突然頭に響くという噂を怪談として耳にしていたがまさか本当だとは思いもよらなかった。核で死んでいった人の霊だとも言われているが、果たしてどうなのだろうか。
ただ、余計なお節介をしたその声にちょっとむかついたので反論する。

「あなたの助けなんていらなかったわよ!別に、気づかれなかったらそれはそれでいいんだから・・・。ていうかあんた何者なのよ」

『ふふ・・よかったですね・・よかったですね・・』

謎の声はフェードアウトしていく。
訳の分からなさから、もやっとしたものを感じるがいなくなったならもう関係ないと怪談を降りていく。大好きな兄に会いにいくのだ。その足は不思議と軽やかだった。

~~~~~~~~~~~~~~~~~

チョコに喜ぶ人のなか、」冥王星ちゃんはチョコを食べずに空をみあげている兎守境をみかける。

「あの、兎守先輩はチョコたべないんですか?」

「いや、僕はチョコは苦手なのでね・・それよりうちの兎を見てない?白い肌と赤い目から仲間と勘違いしたのか。さっきまで能見の回りをくるくる回って跳ねていたのだが」

「いや、見てないですけど・・」

能見テスタロッサ俊輔をみると、ちょっと恥ずかしそうにしていた。小動物にまとわりつかれるという経験は彼の過去を鑑みればそうそうなかったのだろう。

「さて、どこを探したもんかね・・」

境がため息をつくと、どこからか叫び声が聞こえてきた。

「ひぃいい!草は草でも食べられない草はなんだ?ってやめてええ!ぎにゃー!!」

声の発信源は屋上のプランター。
みると境のウサギがスフィン草をかじっていた。

「え・・・兎守先輩あれいいんですか?」

「あの子たちは胃が丈夫だからね、そう簡単にお腹を壊したりはしないさ」

「いや、うさぎの方ではなく、スフィン草の方の心配をしてるのですけど・・」

「まぁあの子達だって加減はできるだろう。全部くったりはしないさ。先っちょくらい食ったって問題無いだろう?」

はたして本当に問題ないのだろうのだろうかと冥王星ちゃんが首をひねっていると、学園坂正門が花火の最後の打ち上げを告知した。

打ち上げ係によって一斉に打ち上げられる花火。
自分たちが準備をしてたということもあって、感動で涙がでそうになる。
思わずカロンに語りかける。

「ふふ、綺麗だねぇカロン」

『花火よりも冥王星ちゃんの方が綺麗だよ・・・なんてのはベタすぎるかな?』

「ん?なぁに?花火の音で聞こえなかった」

『いや、別に聞こえてなければいいんだけどさ・・』

「――――なんてのもベタすぎるかな?ふふっ」

そっと髪飾りを撫でる。準備の最中、生徒会の皆にも助けられたけどカロンにも色々アドバイスしてもらって助けてもらっていた。日頃の感謝を込めて愛でるように撫でる。

「ハルマゲドン、生徒会陣営が勝てるといいね・・」

『勝てるさ、花火大会で絆がより強まったんだもの!』

「うん、うん。そうだね。きっと勝てるよね!」

最後の花火は、うっすらと余韻を残すように夜空に消えていった。

【END】



~~『ビッグ・バーゲン!』エピローグ リズの第十次ハルマゲドン後日譚~~




~~156,456時間前~~



「たーまやー!」

青空に向かって真っ白な光の柱がぐんと伸び上がる。
そんな景色を遠く、目をぱちぱちと瞬かせながらリズ=D=コジョンドは晴ればれと囃した。
つい先日の、真冬の花火大会で教わった掛け声である。
リズの跳ねるような声音が消えるころ、光の柱も小さくすぼみ、やがて消えた。
遅れてゴウゴウという激しい音と、強い風が不意にリズの幼い身体を叩く。

「きゃあっ!」

駆け抜けていく風に飛ばされ、少女の小さな影はコロコロと校庭を転がっていった。
時は第十次ダンゲロス・ハルマゲドン。
生徒会の秘密兵器、αの波動砲が番長グループの主力メンバーを吹き飛ばし、
勝敗の行方を決した瞬間の事。



~~6時間前~~



「ほら、お待ちかねの日本に到着だ」
「わぁー!リズさん、ありがとうございます!」

停泊した船の上、リズの声と、それに応える姦崎夢姦の明るい声が
朝もやに青白く染まる港にシンと響きわたった。

「日本にまで送ってもらっちゃって、なんとお礼を言えば……」
「いいんだよ、私も“コイツ”を見せたい人がいるんだ」

久しぶりの日本の大地に立った夢姦のていねいなお辞儀に、
リズは手に持ったリボンへとそっと目を落として笑った。
その笑顔はまるで幼い少女のように、柔らかかった。



~~156,444時間前~~



生徒会の祝勝会でいまだに賑やかな明かりがもれる校舎の黒い影を背に、
小さな小さな影が、真っ暗な校庭のすみにうずくまっていた。

「ない……ない……どこ……」

今にも泣き出しそうな少女の声を、真っ暗な影の中、
いっそう真っ黒な人型の影が静かに静かに見守っていた。



~~4時間前~~



「それではリズさん、また後で!絶対に家に寄ってくださいね!」
「ああ、わかったよ」

暖かい日差しと、少し肌寒い風がただよう分かれ道。
夢姦が別れるリズに、伸ばした腕を触手と共にブンブンと振りながら言った。
自分よりいくらも小さい少女の精一杯の伸び上がりを微笑ましく見返し、
リズもまた手を振り、ゆっくりと、しっかりと、目的の方向へと歩き出した。

「ああーっ!そうでした!わたし、姦崎って苗字は旅先で使うためのものなので、
 日本では“夢追”って苗字なんです!夢追夢姦って!」

そんなリズの背中へ、夢姦の跳ねるような声が届く。

「お母さんの苗字が“夢追”で、“姦崎”はお父さんの苗字で、
 “姦崎”の方が何かと旅先では都合がいいからって、名乗っているんです!
 ですからわたしの家の表札は“夢追”になってますけれども、心配なさらず――」

リズは思う。
海賊に拾われ、海賊船に乗った少女、姦崎――夢追夢姦。
けれど、ただ好奇心旺盛な恋を探す純粋な乙女。
本来なら、海賊である自分がこれ以上かかわり続けるのも良くない事だろう。
だが、あの日、あの人が、あの場にいてくれた事が、今の私を形作ってくれている。
だから――

「そんなに心配しなさんな!ちゃんとお嬢ちゃんの家にはお邪魔させてもらうよ!」

もう一度ふり返り、しっかりと手を振って、リズは力強く応えた。



~~156,420時間前~~



「もうほっといてって言ったでしょ!」

波止場に並ぶ船の間に、潮風を含んだ少女の金切り声が響いた。
真夜中の港に一人でたたずむリズが見据える先には、真っ黒な人影。

「わたしはサワムラのところになんか行かないし、社のことも知らない!
 もう帰るんだからひとりにしてよ!」

影法師がそのまま起き上がったような真っ黒な人影に、
リズは声をからして叫び切ると、ぜいぜいと肩を揺らした。

「だから……ほっといてよ!」

最後の声を出し尽くした瞬間、リズは人影に向かって走り出していた。
細い手足をしならせ、コンクリートの地面を蹴飛ばし、
一呼吸の間もなく、ゴムボールのように飛び跳ねたリズの身体が、
渾身の飛び膝蹴りがリズの前に立つ人影に突き刺さり――否、
突き刺さる直前に人影が崩れ、的を失ったリズはバランスを崩して地面へと倒れこんだ。
人影を形作っていた炭の粉がチリチリと赤く周囲に舞い、しばらくするとまた人の形となった。

「……ほっといてよ」

あちこちを擦りむき、力なくにらみつけるだけとなった少女を前に、
人影は黙ったまま静かに近づき、手に持っていたノートPCを差し出した。

『あやまっても許してもらえないかもしれないと、怖くて泣きそうなのでしょう?
 私はお母さんから逃げる子供達をたくさん見てきましたからわかります。
 大丈夫です。佐和村さんは怒りませんし、悲しみませんし、がっかりもしません。
 貴女を笑って許してくれます。だから、顔を見せにいってあげましょう』

PCの青白く光るディスプレイに並ぶ文字列を見て、

「……う、ぐうぅ」

幼い少女はのどをつまらせ、大粒の涙をこぼした。



~~2時間前~~



「綺麗になったもんだな」

小奇麗に区画整備された、どこまでも真っ直ぐに続く道路を眺め、リズが呟いた。
思い出すのは自分がまだ子供だったころ、日本に来て“あの人”と会った日のこと。

「元気にしてるかな……サワムラ」

リズがかつて日本にいた時に、多くのことを教えてくれた先生、佐和村静穂と共に過ごした日々。
貰ったリボンを失くして会わせる顔がないからと、そんな子供っぽい理由で逃げるように日本から離れたあの日。

「ずいぶんと遅くなったが、やっと胸を張って言えるな」

過ぎ去った時間を思い、目を細めるリズ。しかし足はもう止まることもない。
やがて、手に持っていたリボンをそっと自分の髪に結わえた。

「やはりちょっと似合わないかな……」

苦笑交じりの声が、春めく青空に吸い込まれて消えた。



~~156,419時間前~~



――それは彗星が如く天翔る、それは天馬が如く天駆ける。

「どうして……?」

どうして静穂がここにいるのか、と、リズは絶句していた。
すでに船は港を出て、海上を走り始めていた。
しかし、そんなことはものともせず、突如姿を現した静穂は波止場から船へ、
その身を躍らせてリズの元へと降り立っていた。

「……」
「……」

ゆらゆらと波に揺られる船の甲板に、リズと静穂はしばし無言で見合った。
何も言わずに逃げるつもりだったリズは、何を言えばよいかもわからず、黙るほかなかった。
静穂もまた、言葉を探しているのか、リズを前に押し黙ったままでいた。
だが、やがて、

「リズ」
「……はい」

静かに、静穂は口を開いた。

「ええと……私はリズが黙って帰りたいって思っているならそれでもって……
 でも、御咲がそれでいいのって言ってくれて……
 私もやっぱりリズに言わなきゃって……それで」
「……?」
「あ……ちょっとまとまらなくて……でも、その……」
「……??」
「リズ」
「……うん」
「いつでも帰ってきていいから」

――それは慈雨が如く心に沁み、それは慈母の如く心を抱く。例え、たどたどしくとも。

無言のまま潤む瞳を向けるリズの顔へ、
言葉を終えた静穂は、そっと上体を屈めて自分の顔を寄せた。
二人の顔が近づき、

こつん。

静穂の額が、リズの頭に軽くぶつかる。
そのまま優しく、リズの頭は静穂の頭でぐりぐりと左右へゆすられた。
ぽかんと目を丸くして、視界いっぱいに広がる静穂の瞳を、リズは見返していた。

「いってらっしゃい」

上体を起こし、半ばマフラーに埋められた顔から、静穂は最後にそう言った。
額に残る静穂の体温を感じながら、リズは自分が頭をなでられていたのだと気付いた。

――ん!ちょっとこっちきて!――えーい!おむねぐりぐりー!
――え……?ええと、どうしたの?
――なでてもらうかわりにぐりぐりー!

静穂と過ごした日を思い出し、リズはボロボロと涙をこぼした。
嗚咽に紛れてリズが呟いた返事は、果たしてなんだったろうか。



~~156,420時間前~~



『貴女のお友達が黙っていなくなってしまいますよ』

うつ伏せ用枕に顔を沈め、既に眠っていた静穂を起こしたのは、その呼び声だった。

『縁あって貴女への伝言を頼まれたのです。一時間後に、港です。
 子供は本当に些細なことで永別の道を選びますから。どうか悔い無きよう……』

言葉だけを残して呼び声が聞こえなくなった後、
静穂は同じく目を覚ましていた御咲に背を押され、出かけるための着替えをはじめた。

「きっとリズちゃんは不安なんだと思うな。だから安心させてあげて」
「うん」
「マフラー巻いちゃうね」
「うん」

目の前でくるくると動く御咲の手を眺めながら、静穂は思考を巡らせていた。
リズがリボンを失くしてしまったこと。
それで不安になって、どうしていいか分からなくなっているだろうこと。
自分が、そんなリズを安心させられるだろうかということ。

「ん……」
「静穂ちゃん?」

マフラーの端を持ったまま、静穂の視線に気付いた御咲が手を止めた。
静穂は御咲と、御咲の背後に見える自分のベッドを見た。
手が拘束されている自分が寝やすいようにと、御咲に選んでもらった枕。
御咲に会うまでは、ベッドで寝る事など思ってもいなかった。
横になって、無防備になるなど考えられない、座るか、立ったまま寝ていた過去。
そんな自分に安心を与えてくれたのが、御咲だった。

「御咲みたいに……」

頑張ってみよう。そう静穂は思った。

言葉の断片からだけでも相手が何を考えているか分かる、
それだけの付き合いを重ねてきた御咲は、静穂の口から漏れた自分の名前を聞いて、
それだけで静穂の言葉の意味を汲み取り、

「ふふ」

自分を想う相手の心に、
思わず静穂のように手に持ったマフラーに赤く染まった頬を埋めた。



~~『ビッグ・バーゲン!』エピローグ リズの第十次ハルマゲドン後日譚~~



――それは幼心の意地と、成長する思いと、
――遠回りの道のりと、回り続けた時計と、
――それら全てが巡り巡って、自分の家路を見つけられた、そんなお話。



~~Now Is the Time~~



「ただいま」<終わり>

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最終更新:2014年04月29日 18:10