白粉が(前の穴未使用にも拘らず)後ろの処女をささげていたその頃――

「ふっ、今夜はいい戦いだったな」
 ”氷結の魔女”こと槍水仙が、大きな月を見上げながら満足げにつぶやく。
「まさか残っている半額弁当が二つだけとはね……。ま、その二つともアタシたちが獲っちゃったワケだけど」
「ま、順当な結果といえば順当な結果だった」
「そうね――それより、気づいてる?」
 奢我あやめが金髪を揺らして振り返る。
「何をだ?」
「スパッツ……」
 という単語をあやめがつぶやくと、仙はギクッと身体を硬直させる。
「はいてなかった、よね」
「い、いやその……うっかり全部洗濯してしまっていて……だ、だから! ええと……」
 赤面してしどろもどろ弁解する仙に、あやめはばっさりと言った。
「仙って露出狂?」
「な! な、何をいきなりッ!! そそそんなわけないだろう! 変態は佐藤の馬鹿だけで十分だ!」
「でもあんな激しいアクションしてさー、スカートでさー、そりゃあ丸見えだったよねー」
「うっ……」
「周りの男どもも仰天してお頃のシャッターを押しまくってたしさ。そのせいでいつも強敵だった奴らも腹の虫よりチンコの欲求が勝っちゃって弱体化してたし、ひょっとして新しい戦術なのかと思ったわ」
「い、いや……争奪戦の最中は夢中になって忘れていて……き、今日は見るだけ見て帰ろうと思っていたんだ! 参加するつもりは……。でも麗人、お前がいたから」
「アツイ勝負になると思った?」
「……気合が入っている顔をしていたからな」
 にやり、と笑みを交わす雌狼、二匹。
「それはそうとして、あの時……弁当を取った瞬間のことだけど」
「ん……? ああ、一瞬、お前は妙な動きをしたな。そのおかげで、隙を突いて先に掻っ攫うことができたわけだが」
「あの瞬間、実はアタシ、仙のおパンツを抜き取ってたのよね」
「…………。は…………?」
 仙は(お前は馬鹿なのか?)という顔でぽかんとあやめの顔を見つめた。あやめは真顔でそれを見つめ返し、そして弁当の袋からそっと、くしゃくしゃに丸まった布切れをつまみ上げた。
 ――色は、ピンクと黒のストライプだった。
「そ……れは私のッ!」
 はっとなって自分のお尻に手をやる仙。ない。なかった。そんな……そんな馬鹿な、あの一瞬で? たとえキックを放つために足を上げていた瞬間はあったにしろ、あの高度な攻防の中でそんなおふざけをするとは……!!
「ばっ、馬鹿ァ!! か、返せッ!」
「フ……」
 あやめはこれ異常ないほどのいじめっ子づらで仙を見下ろした。
「ノーパンで他人の縄張りをうろつきまわる女狼ってどうなのかしら? 発情期? ふふーん」
 あやめは指でくるくるとこれ見よがしにパンツを回してみせる。
「返せッたら!」
「何してくれる?」
「クッ……な、何って……」
「何かしてくれんだよね? まーさか、ただで返せとかいわないよねえ?」
「そ、それは……じ、条件は何だ、麗人ッ!」
「あ? やるんだ? そうね、じゃあまずはー……」

 悪魔の交渉が始まった。
 そしてそれはもちろん、奢我あやめの独壇場であった。

「だ、だれも見てないだろうな!」
「見てないってば。……アタシ以外ね」
「く、くそ……こんなこと、金輪際今回だけだからな!」
「はいはい、そうだといいねー?」

 ”ノーパンスカートのまま倒立”
 あやめが出したのはそんな条件だった。
 悪魔としか思えない所業だ。

「……ど、どうだ!」
「おー! 倒立きれーい。ふともも白いねー、くすぐり回したくなるわ。さーてどれどれ……かんじんなところは」
「や、やめろばか! どこ触ってる!」
「まんこ」

 月光の降り注ぐ人気のない夜の公園。その滑り台の陰で、少女二人のひそかな遊戯。

「そういうこというなッ! 馬鹿ッ!」
「おけけうすーい。くぱぁ、ご開帳。ほらほらじたばたすんな、おーやー、濡れてきてませんか、お仙さんや」
「そ、そんなことあるかッ!」
「あ、誰か来た!」
「う、うわわっわぁっ!」
「じょーだーん」

 ばふっ、とスカートを頭にかぶせて茶巾包みにされる仙。

「や、やぁっ! なんだこれ、どうなってるんだ!? 放せ、おい、真っ暗で何も見えないぞっ!?」
「え? アタシはよく見えるよ、仙のエロい下半身が」
「や、やぁ……!こ、こんなところ人に見られたらどうするんだ!」
「さあてねー? どうなっちゃうのかなあー? あ、もうこんな時間かあ。家帰らなくっちゃなー。この娘どうしよー、このまま朝まで公園に放置しようかなー」
「麗人……! お前は鬼かッ!? こ、こんな恥ずかしい格好で……!! 麗人、後生だ! もうやめてくれ!」
「『お願いします』でしょ?」
「ぐッ……!」
「あ、泣くの? いいよ泣いても? アタシ泣いてる女子イジメんの大好きなの」
「だ、誰が泣くかッ!」
 仙は湿った息ですすり上げると、『お願いします、もうやめてください』とか細い声でつぶやいた。
 あやめはその声に性的に感じたように、ぞくぞくッ、と背中を震わせて頬を紅潮させる。
「ああ……! やっぱ、いいわ仙は……! こう、サド心にぐっとくるっていうか……」
「や、やめてくれる……んだよな?」

 あやめの口元が花のようにほころぶ。可憐な、しかし猛毒のある極彩色の笑み。
 無造作に伸ばした金髪が月光に輝き、ブルーの瞳が危険な輝きを宿す。

「もちろん、やめてあげるわよ。――アタシが好きなだけ弄繰り回したあ・と・で♪」

 あやめの指が暗闇を突き破り、仙の股間へ触れる。

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最終更新:2013年03月07日 03:50