メルコール モルゴス "Myths Transformed"より -Morgoth's Ring

  • メルコールは原初、遥かに強大な存在として創られた。("フィンロドとアンドレス"より)
  • エルの下で、最強の力の持ち主であった。
  • 他の全ヴァラールが束になっても、メルコールを制御したり、鎖に繋ぐことはできなかった。
  • ウトゥムノに対して起こした戦争は、ヴァラールにとって気の進まないもので、真の勝利からは程遠いものだったが、クウェンディをメルコールから守るために行った。
  • メルコールはその力を、配下や生み出した怪物に注いだため、弱体化した。
  • 古代の完全なるメルコールの力=暴君モルゴス + モルゴスの配下達
  • モルゴスは、配下達と離れ離れになると、一時的にではあるが、他のヴァラール達でも何とかなるくらいに弱体化してしまう。
  • その為ヴァラールは、モルゴスの配下(バルログなど)を少しずつ、各個撃破していった。
  • 結果、遂にヴァラール達がウトゥムノでモルゴスを見つけ出した時、モルゴスが直接戦闘に巻き込まれぬよう、自分を護衛するための戦力が十分に存在しなかった。
  • マンウェは弱体化したメルコールを見て驚いた。メルコールもそんなマンウェを見て驚いた。
  • メルコールは"分散"してしまった。しかし彼が切望し、支配した配下達は、彼にとって必要かつ当たり前のものとなっていた。その為、もしこのプロセス(弱体化のこと)を逆回しできるとしても、モルゴスはそうはしなかっただろう。
  • この状況に置かれて、モルゴスは悔やみかけたのだが、結局そうはせず、彼は増々邪悪になり、馬鹿になっていった。
  • 彼は聖なる物を汚して愉悦を感じる、歪んだ喜びを覚えた。
  • 彼は自分を卑下し、悔い改めたかのようなフリをしてみせた。
  • 彼は悔いたフリをして、ヴァリノールに連行されることで、彼の国に侵入し破壊してやろうと企んだ。


 メルコールは、原初においては、遥かに強大な存在として創られたに違いない(cf.‘フィンロドとアンドレス')。エル(神々を創り出した至高神)の下で最強の神であった(1)。(メルコールは造り、考案し、取り掛かるためにあり、マンウェは改善し、実行して、完成させるためにあった)。
 他のヴァラールが一丸となっても、メルコールを制御したり、鎖に繋ぐようなことはできなかったに相違ない。アルダ初期において、メルコールのみでヴァラールを退却せしめ、中つ国の外へと追い出したことは、特筆すべきことである。

 ウトゥムノに対して起こした戦争は、ヴァラールにとって気の進まないものであり、真の勝利からは程遠いものであったが、メルコールの領域における影響から、クウェンディを保護・逸らすために行われた。しかしこの頃のメルコールは既に、‘モルゴス、暴君(もしくは暴虐と意思の中心) + 彼の下僕’(2)となるほうへ推移していた。この総計が完全なメルコールの古き力に相当するものであった。そのため‘モルゴス’が一時的に下僕たちと離れ離れになると、ヴァラールでもほぼ制御可能なくらいの力になってしまう。そこでヴァラールは、メルコールの配下達(軍隊やバルログ共など)を少しずつ始末していった。そのため、ついにヴァラールがウトゥムノに突入し‘モルゴス’を見つけた時には、彼が直接戦闘に巻き込まれぬよう、自身を守るための十分な力(様々な意味で)が最早存在しなかった。アルダに入って以来、マンウェはメルコールと顔を合わせたことがなかったが、ついに再び相まみえた。そして二人は共にびっくり仰天した。というのも、マンウェはメルコールが個人として衰えたことに気づいたためであり、またメルコールも、自身の個としての力がマンウェよりも弱くなったことと、睨みつけるだけでマンウェの気力を挫くことが最早出来なくなったことから、自分が弱体化したという事実を見て取ったためだ。

 メルコールは‘散逸’した。マンウェがそう彼に語ったか、もしくは、メルコール自身その事に突然気づいたか(或いはその両方か)に違いない。しかしメルコールにとって、彼の下に手先どもを加えたいという欲望や、支配した下僕たちは必要かつ当たり前のものとなっていた。その為、もしこのプロセス(メルコールの‘散逸’)を逆に辿れるとしても(完全で尚且つ偽りのない、自ら謙ることと悔恨だけが、これを可能にするかもしれない)、彼は自身にそうさせることは出来なかっただろう※。他の者達にとって、このようなバランスに置かれる時は、身震いする瞬間であるに違いない。彼はもう少しで悔悟するところであった――が、結局そうはせず、増々悪意を抱き、愚かになっていった。

 ひょっとかすると(メルコールは可能だと思っていた)彼はその時、己の意思に反して恥をかくことも‘鎖に繋がれること’もできたかもしれない――もし彼の散逸した力を再び集める前ならば。その為、彼が悔い改めることを心中で拒否すると、すぐ様彼は(これに倣った後のサウロンのように)偽りの謙りと悔悟をしてみせた。このことから彼は、神聖なものを汚すことといったような、ある種の歪んだ喜びを覚えるようになった――[僅かに心からの悔悟をしそうになったことは、もしそれがエルからの直の恩恵による特別なものでなければ、それは少なくとも彼の真なる古の本質の、最後の残光であった](3)。
彼は深く悔い改めたようなふりをした。彼は実際にマンウェの前に跪き降伏した――何よりもまず、彼が振り落とせないであろうと恐れていた、アンガイノールの鎖に繋がれることから逃れるために。しかし突然、称賛されているヴァリノールの砦に侵入し、破壊するという考えを思いついた。そこで彼はヴァラールの中で最も小さきものとなり、またヴァラール各々と全員の下僕となり、彼が為した損害と全ての悪を直す助け(助言とその業で)をすることを申し出た。この申し出はマンウェを唆し、欺いた――マンウェは、彼自身に生まれつきの欠点(罪ではない)があることを、思い知らされたに違いない#。彼は(部分的にはメルコールの全き恐怖がなくなったため、部分的には彼を制御したいという欲望がなくなったため)、全ての創造的な力の損失や、困難で危険な状況に対処するには欠点があることをも、改善し癒し再び整えること―(‘現状を維持したままで’)―に魅了された。幾人かのヴァラール(トゥルカスのような)が助言したにも関わらず、彼はメルコールの嘆願を聞き入れた。

 メルコールは最後尾でヴァリノールに連れ戻された(トゥルカスを除く+。彼はメルコールの後ろを付いて行き、アンガイノールの鎖を持ち、それをカチンと鳴らしてはメルコールに思い知らせた)。

 しかし会議において、メルコールは直ぐに自由になることはなかった。ヴァラールの議会はそこまで寛容ではなかった。メルコールはマンドスのもとに付託された(そこで‘隠遁’・瞑想し、彼の悔い改めを完全なものとするために――そしてまた彼の計画を正すために)。

 その結果、メルコールは彼の策が賢明なものであるかどうか疑いはじめ、それら策の全てを廃棄した。そして彼の中で突然反乱の意思が燃え上がった――しかし彼は敵地にあり、僕達とも引き離され、今や完全に孤立していた。反乱を起こすことは不可能であった。そのため、彼は苦い薬を飲むことになった(しかしこの事は彼の憎悪を極めて増大させ、後々までずっとマンウェの不誠実さを責めたてた)。

 物語の残りについて、メルコールの釈放や、ヴァラールの会議にマンウェの足元に坐して出席することを許されることなど(後の物語における邪悪な相談役のパターンは、この太古のモデルに由来するものと言えるかも?)、既に語られたように多少の差こそあれ、進むことになる。

※ 彼の弱体化の理由の一つは、彼の‘手先ども’(オーク、バルログ、etc)に回復と増加の力を与えたためだ。その為彼らは、遠方よりの具体的な命令がなくとも再び集まる。メルコールの生まれつきの創造的な力の部分は、彼のコントロールを脱した、独立した邪悪な生物を作るために失われてしまった。

# 全ての有限の生き物は必ず欠点を持つ。それは幾つかの状況に対処するのには、不十分な点となるものである。その時に意図したものではなく、またその者がベストを尽くす時(例えそれをしなければならなくても)には罪には当たらない――エルに仕えるという意志があれば。

+ トゥルカスは邪悪に対する戦の際における、善の‘暴力’を表すものである。これは明らかな邪悪に対して向きあう事(例えば戦争)よりも、取引をするなどといった妥協を一切許さないものである。またエルよりも劣るどんな者であっても、これを正したり、アルダの物語を書き換えたりすることは出来ない(どんな類の誇りでも)と考えられる。



クリストファー氏の注釈
(1)
  • Cf. Athrabeth Finrod ah Andreth(p.322)、「ただエルのみを除いて、メルコールよりも強大な力を持つものは考えられない」
(2)
  • メルコールのオリジナルパワーの‘散逸’というアイディアに最も早く言及してるものは、アマンの年代記 179(p.133)である。
(3)
  • []で囲まれた部分は、文章の一節が書かれた後に挿入されたものである。




  • 今は抄訳ですが、長髭族のほうが終わったら、いずれ全訳する予定です。 -- 名無しさん (2013-01-18 22:58:15)
  • あと、これに続く、サウロンについての部分も一応やるつもり。 -- 名無しさん (2013-01-19 07:32:18)
  • メルコール モルゴス終了。本文と注釈の間にクリストファー氏の補足が入るんですが、これに関しては省略としました。そう目新しいことは書かれてないので。 -- 名無しさん (2013-01-26 21:20:34)
  • 誤訳やもっと良い訳ありましたら、ガンガン修正しちゃって下さい。 -- 名無しさん (2013-01-27 00:07:41)
なまえ:
コメント:
最終更新:2013年01月27日 00:07